まっくらどん底で探してる
ウータンへ向かう途中で、サアサは馬に乗った旅人を視界に捉えた。隊商長である父は見慣れない装いの人物を警戒し、サアサとライラを荷台へと押し込んで馬を急がせる。
ライラは警戒心で、サアサは好奇心で隙間から外を覗いた。その人物は全身を鋼鉄の鎧兜で包んでおり、肌の少しも外気に晒していない。黒鹿毛の馬の背中を滑るように赤い外套が風で靡き、その腰に剣が携えてあるのが見えた。
「暑くないのかしら」
緊張感の無いサアサの一言に、ライラは力無く笑うことしか出来なかった。通り過ぎた自分達になんの興味も示さずに少しずつ小さくなっていくその姿に、ライラも肩の力を抜く。
オアシス都市には多くの人が集まる。
商人、旅人、そして盗賊。自警団さえ無い小さな都市ではそれぞれの隊商が用心棒を雇い、商品を守るしか無かった。サアサの父が率いている隊商は新しく用心棒を雇う程の余裕が無かったため、これまでは情報を頼りに盗賊と遭遇しない道を選んで危険を回避していた。
もしも盗賊と出会った場合はむやみに抵抗せず、嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
騎士とすれ違ってしばらく経った頃、サアサは突然馬が歩みを止めたことに気付いた。外からは父や仲間の怯える声。異変を感じたライラがサアサを奥に押しやり耳を澄ませると、聞き覚えのない声が聞こえた。
「荷を置いていけ、抵抗はするな」
盗賊の言葉に、隊商の男達がうろたえる声が聞こえライラは体を強ばらせた。―――この道は盗賊が居なかったはず。移動中の盗賊団と運悪く鉢合わせしてしまったのだろうか。
振り向いた先に居るサアサが顔を青ざめているのを見たライラは、意を決して荷台の外へ出ようと立ち上がる。飛び出したライラが見たのは、先ほど見た鎧兜の騎士がこちらに駆けてくる姿だった。
瞬く間に盗賊を一人で倒したその騎士は、自分はレーム帝国から来た旅人だと言った。名をハルといい、探し物をしているのだという。先ほど盗賊をなぎ倒していった剣を再びサアサ達に見せた騎士は「これに似ている剣を見たことが無いか」と全員に聞いて回った。サアサは赤を基調にした騎士の剣を、キラキラとした目で見つめていた。商人でない者が見たとしても、その剣が高価なものだと分かるだろう。市場に出回れば必ず噂が流れる。だがサアサ達の誰も、剣のことは知らなかった。それを聞いた騎士は落胆の色も見せず(表情が見えないので当然だが)礼を言ってから背を向けて馬に乗ってしまった。
サアサの父は慌ててハルの背に言葉を投げた。どうか自分達に同行してほしい。次の市場は規模が大きいので剣の噂が聞けるかもしれない、とも話した。騎士は隊商が再び盗賊団に襲われるかもしれないと考えてそれを承諾。サアサは騎士の淡々とした口調に緊張しながら、その声の若さから自分達とそう変わらない年頃ではないかと考えた。
騎士は馬に乗り、隊商の先頭を歩いている。
ライラはいまだに猜疑心を消せずに探るように騎士を見ていた。サアサの父は助けたお礼の品どころか、護衛の報酬すら要求しなかった騎士を不思議に思いつつも次の都市を目指して馬を進める。
サアサだけがただひとり、騎士の探しているという剣のことを考えていた。