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男は三人に、自分はバルバッドへ向かう途中の商人、「シン」だと名乗った。葉っぱ一枚の様相だった彼に、ハルは自身の替えの服を貸し出す。男は有り難くそれを身に纏ったがどう見ても丈が足りていない。筋肉質な腹や太ももが晒されたままだが、最終的に腰周りが隠されていれば充分だろうと全員が判断した。シンは身にまとった服の小ささから、傭兵の中身がまだ幼い少年なのではないかと考えを改める。

「服を貸してくれてありがとう、ハル」
「すみません、もう少し大きいものがあればよかったのですが」
「これで充分だよ。この礼は必ず」
「いいえ、どうかお気になさらず。騎士であれば当然の行いです」

ハルの言葉にシンは目を丸め、数秒ハルを凝視してから朗らかに微笑んだ。

「さっきはごめんよ、おじさん。どうも僕たちは砂漠越えのせいで、危険なものにびんかんになっているようだよ」
「ほう、君たちはその年で砂漠を越えたのかい?」
「そうだよ! ハルさんと僕は、黄牙の村のある北天山高原から、中央砂漠を越えてきたのさ!」

この半年の旅路を思い出しながら笑顔で語るアラジンに、シンも興味を示したようだった。ハルとモルジアナは顔を見合わせながらも二人の会話を大人しく聞く。シンは、自分も冒険譚が好きなんだと口を開いた。未知なる土地や知識に出会う高揚感は何ものにも代えがたい。冒険は男の夢だと言ったシンに、アラジンも目を輝かせる。これまでの半年間と、これからアリババも交えて向かう旅路。それはきっとシンが言うように掛け替えのない、素晴らしいものになるのだと。そう信じて疑わなかった。

盛り上がる二人にモルジアナはおずおずと声をかける。今日中にバルバッドに着かなければいけないのに、気付けば座り込んだまま時間が経過していた。シンはモルジアナに謝罪をしてから立ち上がる。ハルも座り込んでいた愛馬を立たせアラジンの後に続いた。潮の香りがするというモルジアナに、アラジンが駆け出す。視界の先にある丘を下れば、バルバッドの街が見えるはずだった。

波の音がアラジンの耳に届き、視界が開ける。

半年の旅路を経て、とうとうアラジンはアリババの居るバルバッドへと到着したのだった。



大海洋国家であるバルバッドは様々な人種や文化が混ざり合い、周辺国とは違う雰囲気を持つ国であった。アラジンやモルジアナが見慣れないものを見て戸惑いと興奮を抑えられず浮き足立っている中、シンとハルはその視線を一点に向ける。賑わいを見せる港や商店から少し離れた位置にある壁には、大きく「王政打破」と赤い塗料で殴り書きされていた。

「先王が亡くなられてからは、国が乱れているようだね」

シンの言葉を聞き、ハルの脳裏には十年以上前に一度だけ会ったことのあるバルバッド先王の姿が浮かんでいた。兄の叙任式に参加していたラシッド・サルージャ。

―――厳格な雰囲気に違わず、堅実な国家運営をしている印象だったが。

「今のバルバッド国王は、先王のご子息でしょうか」
「ああ、第一王子のアブマド・サルージャが即位した。弟のサブマド・サルージャが副王だ」

ハルが落書きを見据えながら思案に耽っている姿をシンが見つめる。アラジンに呼ばれハルが踵を返すと、赤い外套が潮風に吹かれバサっと音を立てて翻った。