あたりくじ(爆豪)
私と、勝己と出久は、幼馴染だった。幼稚園からずっと一緒。女だからって探検には連れて行ってもらえなかったけれど、服が汚れるのは嫌だったから別に良かった。正直に言えば勝己は不機嫌になるから、賢い私は表向き残念がってみんなを見送っていた。その日もいつものように、勝己たちを見送って、出久はその最後尾を歩いている。「名前ちゃん、お土産とってくるね」なんて笑って手を振る出久。そしてこっちに見向きもしないで、ずんずん先頭を歩いて行っちゃう勝己。いつもの光景。ずっと続いていくのだと思っていた。だけど、この日を境に私達の関係は酷く歪なものになっていった。
特に、勝己と出久は目も当てられないぐらい。
「怪我した」
いつもの一言と共に家へやってきた勝己を、私は静かに受け入れる。自分の家のように私の部屋へ向かう階段を登っていく後ろ姿にため息を吐きたくなるのを耐えた。少し前に彼氏と鉢合わせして修羅場になりかけたことを忘れたのだろうか。ちなみにその彼氏には振られた。初めて出来た彼氏だったので私は大変ご立腹である。しかも彼とは同じクラスだ。気まずいにも程がある。勝己が同じ中学ではないことが不幸中の幸いだった。
「タダでは治しません」
「あ?」
私の大好きなクッションを下敷きにして座る勝己を見下ろして言うと、勝己は面倒そうな表情を見せてからポケットの中をごそごそと漁った。「お」と短い言葉を発して取り出したのは飴だった。それものど飴。スースーするやつ。
「私それ苦手」
「知っとるわ」
勝己はそれをポケットに戻すと、今度はぐしゃぐしゃになったレシートを取り出した。苦手な飴の次はゴミって……とんでもねぇ男だな。呆れながらも私がゴミ箱に捨ててやろうと手のひらを出すと、渡されたのはレシートではなく、レシートと重なっていたコンビニくじの当たり券だった。無料引換券。それも私が好きなジュースだった。
「はあ……」
でかいため息を吐いてベッドに倒れ込んだ私に、勝己は「んだよ」と顔を歪める。引換券を両手でつまんで「べっつにー」と誤魔化すと、痺れを切らしたようにベッドに乗り上げてきた。オイ、乙女のベッドだぞ。
「……どこ怪我したの」
「ん」
勝己は袖をめくって赤く擦ったような腕の傷を見せてきた。特訓中にどこかに擦ったのだろうか。こういう傷、地味に痛いんだよね。バレーの授業で膝を擦ったとき、お風呂で痛い思いをしたのを覚えている。だから、まあ、かわいそうだし。私ってば優しいし。
「しょうがないなあ」
目を逸らして言った私に勝己は満足そうにニヒルな笑みを浮かべた。
これでヒーロー目指してるんだから驚きだ。
勝己の手が私の片腕をベッドに押さえつける。といっても、全然力なんて入ってないから抜け出そうと思えば出来るけど。袖をまくられ、曝け出された手首の下あたりに勝己が顔を寄せる。何度やっても気恥ずかしくて顔を背けると、すぐにぴりっとした痛みが走った。無意識なのか、がじがじと歯が肌に押し当てられる。そっと勝己が離れていき、顔を元の位置に戻すと、怪我の跡さえない勝己の腕が視界に入った。流れるように自分の手首を見る。そこにはクッキリと勝己の歯型が残っていた。治療の度に妙な空気になる室内で、私は必死に早鐘を打つ胸を落ち着かせようと深い息を吐いていた。