文具
禪院真希/呪術廻戦ぐるぐる、ぐるぐる、色鉛筆の先が潰れてなれなくなるまで、ひたすらに紙の上の丸を塗りつぶしていく。
行き場のなくなった感情に、無理やり色をつけて放出するようなその行為を始めたのはいつからだったか。悲しいことがあっても、嬉しいことがあっても、苦しいことがあっても、イライラしている時でも、対抵抗していれば全てが過ぎ去ってくれるのだ。
ぐるぐる、ぐるぐると何度も何度も塗り重ねて、画用紙の上の丸の中で不快な音が発せられそうになったその時、呆れたような、その行為に引いているような、そんな声が彼女の耳に飛び込んできた。
「なんだお前、またやってるのか」
「真希ちゃん」
「あーあー、手にまで色が移ってる」
そう言って、真希は色鉛筆を握る女からそれを取り上げる。
あっ、と思わず漏れた声に、彼女は苦笑を漏らして「まずは手を洗ってこい。任務だとさ」と言葉を投げる。
任務。任務。ああ、そうだ。わたしは、わたしたちは呪術師で、呪霊を祓う任務を受けているんだ。
と、ここまできてようやく女は今ここがどこで、どういう状況であるかを思い出す。
「やればできるんだけどなあ、お前は」
「わたしなんか、なんの役にも立たないよ。みんなとは……違う、もん」
「んなことないだろ」
ぽん、と少しばかり力強く頭の上に乗せられた手から、じわじわと熱が伝わってくる。
彼女は暖かい。この高専の人は、とても暖かい。それ故に少しばかりつらい。
彼女の超常的な身体能力をはじめとして、同じ学年で過ごす面々のような力は持ち得ない。なぜ、自分がここに居られるのかもわからないのに。
どんなに頑張って追いかけても、追いつける気がしない。いつだって一人でポツンと立っているところに、彼女らが引き返してきてくれるのだ。
それは多分、今日も。
「オラ、正気に戻ったならとっとと行く」
「う、うん」
「ああ、もう」
歯切れの悪いわたしにイラついてしまったのだろうか、なんて少しばかりの不安を覚える。今更すぎると断じてようやく前を向けば、五条先生が笑っていた。
「さて、行こうか」
「なんだ、送ってくれるのか」
少しだけ、からかうような真希ちゃんの声。
羨ましい。
彼女と仲良く話す先生が、どうしようもなく羨ましい。
――そして今日もまた、わたしは丸を塗りつぶすのだ。