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13月の夜明け

狼谷吊戯/SERVAMP
同題のシリーズの続き。気が向いたら続く。


 ――これは、なんの罰なのだろうか。
 隣で笑う"恋人"に、笑顔を返しながら、オレは未だ残っていたらしい罪悪感に苛まれる。
「吊戯さん。どうしたんですか?」
「はっは。突然だね」
 ……なんのために今オレは笑っているのだろうか。……ああ、そうだ。お金。彼女は、こうしてオレの時間を拘束する対価に金銭を支払っているのだ。
 たくさんの諭吉をばらまいて、彼女はオレを「買って」いる。ごっこ遊びに付き合わせる対価を支払っているのだ。
 お金のためならばなんでもやる。その言葉に嘘はないし、事実そうしてきている。今だって、そうだ。……ただ、少しばかり堪えるものがある。
 彼女は知らないのだ。自分たちの両親が帰らぬ人となった理由を、その元凶を。
「なぁんか、吊戯さん今日変」
 そう言って覗き込む彼女を、笑顔で牽制する。聡い彼女ならばそれ以上に踏み込んでくることはない。なぜなら、彼女が望んでこの関係でいるから。
 下手にオレの気分を害せば、たとえ諭吉をちらつかせようとも意味がないと、本気でそう思ってる。そんなはず、ないのにね。
「ねえ」
「はい」
 彼女の名を呼べば、少し驚いたように目を瞬かせてこちらを見る。この状況で、それはないと思っていたのだろうか。
 そっと頬に手を添えれば、それが合図だと言わんばかりに彼女は瞼を下ろした。
 ごっこ遊びに、行為が付いてくるようになったのはいつからだったか。罪悪感を押し隠して、これ以上彼女が言葉を紡ぎ出せないようにその唇をそっと塞ぐ。
 下を潜り込ませて、口内を蹂躙してやれば簡単に荒れる彼女の呼吸。それから、ゆっくりと瞼が上がって、すぐ近くの彼女が困ったように笑う。
 そっと唇を離したかと思えば、肩にかけているカバンをごそごそと漁り、上品な長財布が飛び出てくる。当たり前のようにそこから数枚、諭吉を取り出して、彼女は肩を竦めるのだ。
「もう、吊戯さんってば」
「はっは。いつもごめんねえ」
「今日はオプション盛り盛りな気分なんですか?」
 気分屋さんなんですから。なんて、事もなさげに彼女は呟く。
 ――ああ、狂っている。彼女も、オレも。
 でも、と彼女は、少しばかり気恥ずかしそうにうつむいてから、自らの唇をそっと撫でる。
「嬉しい……」
 吐き出された言葉は、声は、間違いようもなく焦がれているもので、なぜオレにそれが向けられているのか、まるで理解が出来ない。
 彼女はなんで、こんなにもオレの事を。
「好きですよ、吊戯さん。貴方が私をどういう風に見ていたとしても」
 そう言って、彼女はやはり綺麗に笑うのだ。

2019/07/19 etc 狼谷吊戯
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