―私の歯車は、貴方を見た時から止まったままなのです。
【第一章】―とんだ悲劇の幕開けだ―


 本当に、私にとって、彼は世界の中心であり、憧れの的でもあった。成績優秀、容姿端麗、高身長、性格良し。日の付け所が無い部分は、ある意味、人を近づけない部分でもあったが、彼の雰囲気がそれを許さなかった。所属外の部署にもファンがいて、少なくとも私が彼に話しかけようとする時は、いつも周りに人がいた。執行官落ちになった今でさえ、大々的にファンを公言する者は私以外、少なくなったが、隠れファンがいるという事は周囲も承知済の事実。

 「…なまえ、出張から帰ってきたと思ったら…ここで何をしている?」
「五月蠅い、ギノちゃん!慎也がもうちょっとでここ通るはずなの!出勤日は大体この時間に…」
「…」
 一応、私と同僚であるはずの宜野座伸元(以下ギノちゃん)は、朝から不審者を見るような視線を向けて、私の前に現れた。私はと言うと、出張帰りに疲れ切った身体で、今日が慎也の出勤日である事をシフト表でばっちり確認してから、こうやって公安局の廊下で彼を待ち伏せしている。
 「ストーカーだな…よくこれで犯罪係数が上がらないもんだ…」
「失礼な!純粋な乙女心なんですけど?」
「乙女って柄でも無いだろう…」
「慎也を想う気持ちは、いつでも乙女100%ですぅ」
「ハァ…」

 私にとって人生最大の幸福は、慎也と公安局入社時期が同じで、同期であった、という事だ。(必然的にギノちゃんとも同期だが。)私は、始めて慎也を見た時に、彼にひと目ぼれしてしまい、それからと言うもの、同期である事を理由に、周りの女共を蹴散らし、無理矢理何度も話しかけに行っていた。
 そんな傍らで、慎也と同じく同期であるギノちゃんは私にだけは滅法、甘い。多分、彼が新米だった頃の失敗とかを近くで見ているので、そう偉そうにも出来ないのだろう。事あるごとに、昔の失敗談をネタにして、慎也とのご飯を根回ししてもらった事も、今では良い思い出である。(いや、思い出ってほど昔でもないか。)
 
 ―そんな時。

 「あっ!慎也……ん?」
「ああ…」

 ギノちゃんと話しつつも、視線をはずさなかった先に、私が予測していたモノとは違う光景だが、慎也が現れた。まだ遠くて、彼は、私とギノちゃんの存在に気が付いてはいない。
 …慎也、一人じゃない?…隣にいるの、誰?

 「そうか…お前はまだ知らないのか。」
「…」

 知らないとは?ていうか、ギノちゃんは、あの子、知ってるの?…心なしか、慎也と距離が近いような…。

 「なんだかんだで、シフトが重なってなかったから仕方ない。…常守朱。先日から一係に配属された新米監視官だ。」
「新米…監視官!??」

 私の背後に雷が落ちた気がしたのは、きっと気のせいだ。新米?新米なのに、何であんなに慎也と…。
 …新米監視官相手に、焦ってるなんて。認めない、絶対認めない!私の方が先輩なんだから!

 「ギノちゃん…なんなの?!あの子…」

 焦りを隠せていないが、そんな悠長なことを言っている場合ではない。私の危険信号にランプがついている!それを押し付けるように、ギノちゃんの首元を掴んで問い詰めた。

 「だから、新米…」
「ちがーう!そんな事、聞いてるんじゃないの!気のせいだと思うけど、いや絶対気のせいであって欲しいけど、なんかあの二人…」
「ああ、常守監視官が配属初日にドミネーターで狡噛を撃ってるからな。ある意味、距離は近いかもな。」
「NO!撃った?!誰を?慎也を?新米が?私でも撃ったことないのに?!」
「落ち着け…」
「落ち着いていられるもんですか!今の私の気持ちわかる?楽しみにしてた彼氏の童貞が、よくわからない女に盗られた気持ちわかる?!」
「狡噛は童貞じゃないだろうし、お前の彼氏でも無いだろう…」
「うるさーい!気持ち的には彼氏なの!」

 あああ、嫌だーー!と叫んだ声は、公安局の廊下だけでなく、同フロア全体まで響いていた事は、後にギノちゃんに苦情が来たことから発覚した。




  とんだ悲劇の幕開けだ!
(何で真面目に仕事してる間にそんな事になってるの?!しかも新しい監視官って!一係の監視官は、私とギノちゃんだけで良いじゃんか!)




20150419
20160513掲載 電子書籍販売終了

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