【第二章】―下心に紛れ込んだ純情―
「縢!どう?うまく焼けたと思わない?」
「なになに?マドレーヌ?」
「そう!慎也にあげようと思って!」
「相変わらず物好きだね〜…」
非番の縢の部屋を、監視官権限で無理矢理こじ開けると、ソファに座ってゲームをしていた。ゲームの邪魔をするように、隣に座り、先程焼いたマドレーヌを見せる。慎也にあげるつもりなので、可愛いラッピング付き。
「で?俺のは?!」
「無い。」
「うっそん!見せにきただけかよ!」
「嘘嘘、縢のも作っといたよ、はい。」
「ラッピング雑…」
「中味は変わんないじゃん」
一応、作ってきた縢の分を渡すと、ぶつぶつ文句を言いつつも、すぐに開けて食べてくれる。(こういうところが、憎めないんだよなぁ。)
縢も料理をする仲間なので、いつも慎也にあげる前は縢に味見を頼んでいる。個人的には、身体を作ってる慎也には良い物を食べて欲しいし、その方が身体にも良いと思うから、プレゼントするのだが。(とか言いつつ料理できますアピールが大半)
「おっ、良い出来じゃん!うめーよ!しっとりしてて!甘すぎないし、これならコウちゃんも食べれるんじゃない?」
「やった!今日、慎也、出勤だから、一係行ってくる!」
「何でコウちゃんの予定、知ってるかどうかは置いといて…コウちゃんも喜んで食べてくれるよ」
「…そうかな?いってきまーすっ」
お礼を言って、嵐のように去っていく。
私の目指す先は、一係。途中の廊下で、ギノちゃんに会ったけど、何か小言を言われる前に別れを告げ、慎也のところへ!
++++
「慎也っ!」
乱暴に扉を開ける。仕事中の征さんと弥生と常守朱には目もくれず、タバコを吸いながらパソコンと睨めっこしている慎也に、可愛くラッピングされたマドレーヌを渡す。
常守朱は、面識が無い私を見て、誰だ?という顔をし、征ちゃんは相変わらずだねぇ、という優しい眼差しで私を見て、弥生は華麗にスルー。慎也は、急に渡されたマドレーヌを見て、驚いた顔をしていた。
「…マドレーヌ?」
「うん!今日作ったの!慎也に差し入れ!」
「うまそーだな。後で食う」
「うん…!」
ああ…受け取って貰えた喜びと、数時間ぶりに慎也に会えた事と、なんか色んな感情がごちゃまぜになって泣きそう。
「慎也大好きーーっ!」
感情が高ぶって、抱き付こうとしたら避けられた。そのまま床とコンニチハ。大の大人が床に倒れこんで、みっともないが、今は幸せなので何でも良い!
「おいおい、コウの嬢ちゃん。大丈夫か?」
「とっつぁん。その呼び方、辞めてくれ。誤解を生む」
「征さん…手、差し伸べてくれるなんて…優しすぎます」
「あまりにも哀れでな。」
「それはそれで酷い!」
「コウも、もっとコウの嬢ちゃんに優しくしてやれ」
「俺はギノとかに比べたら、かなり優しい方だと思うが。皆が甘すぎるんだろ」
「慎也…そんな辛辣な貴方も素敵!」
「「…。」」
「あのォ」
今まで黙っていた女の声が聞こえた。なんだ?と思ったのか、慎也も征さんも、その女の方へ視線を向ける。
私だけ、下を向いたまま。
「どうした?常守監視官。」
「彼女は…」
「ああ、お嬢ちゃんは初めてか。」
「…?」
「ギノや俺と同期の監視官だ。」
「一係所属だから、お嬢ちゃんの先輩ってわけだな」
「え…!もう一人、いるとは聞いてました!初めまして、先日付けから一係に配属された常守朱です!よろしくお願いします!」
「………みょうじなまえ。よろしく」
先日の、慎也と常守朱が仲良く歩いていた光景が頭に浮かび、うまく彼女の方を見ることが出来ない。
…そっけなくなってしまう。監視官としては…駄目だなぁ、こんなんじゃ。
「?どうした、具合でも悪いのか」
私のいつもと違う様子に気が付いたのか、慎也も気遣ってくれる。でも、なんて返したらいいかわからなくて、言葉を考えていると、今まで黙っていた弥生が口を開けた。
「常守さん。まだ仕事中でしょ?続き、しなくていいの?宜野座監視官が帰ってきたら、怒るわよ」
「あ、ハイっ!すいません!」
「じゃ、じゃあ私も戻るねっ!慎也、マドレーヌ食べてね!」
「…」
これ以上、色々突っ込まれるのが怖くて、速足で退散した。せっかくの弥生の助け舟を無駄にしない為にも。
背中に慎也の視線が突き刺さっていたような気がしたが、新米の監視官に嫉妬してますなんて…いくら私でも本人には言えない!
なのに。
「なまえ」
「!慎也…」
―どうして、こうも。彼は。
「…何かあるなら言え」
―こうやって仕事を放って、私にかまってくれるのか。
走って追いかけてきてくれたのか、少し息があがっている。本当はめちゃくちゃ嬉しいのに、こういう時だけ、素直になれない。いつもは大好きとか簡単に言えるのに。
「別に、何でもないよ。」
「そうやって、結局何も言わないとこ、なまえの悪いところだぞ。どうでもいい事は言うのに。」
「慎也には関係ないもん。」
―佐々山が死んでから、慎也は少し変わった。
それは皆言わないが、承知の事実である。でも、私はそうは思わない。こうやって、私には世話を焼いてくれる。…昔と同じように。
彼にとって、私は“同僚”なのだ、という事を再認識してしまう瞬間だ。
「何か抱えてるなら、すぐに言え。」
「…」
「…」
「…慎也は」
「なんだ?」
「…別に、なんでもない!早くマドレーヌ食べてよっ!ばかちん!」
「なっ」
そして、また逃げるように。廊下を走った。行きとは全く違う心情で。
「なんなんだ…あいつ。」
下心に紛れ込んだ純情
(こうやって簡単に心の中に入ってこようとするくせに、肝心なところは入ってきてくれない。)
20160513
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