【第八章】―行方知らずの貴方ですから―
…オカシイ。静かすぎる。
朝の八時三十分、出勤日はいつもここ(公安局の廊下)を通るのだが、こんなに静かに通れた日は、かなり久しぶりと言っても過言では無い。そんな不自然な静けさに違和感を覚えつつも、気にならない…はずだった。
「…何でいない。」
―いつも現れるアイツがいなかった。
++++
「おはよーコウちゃん」
「ああ…アイツは?」
「アイツ?」
苛立ちを隠すかのように、タバコを吸い始める。
一係に着いたら見えると思っていた姿も見えず。溜まりに溜まっている吸い終わった煙草を捨てる気にもなれず、また新しいモノに火をつける。
呑気にゲームをしている縢にアイツの所在を確認する。
「ああ…今日は非番のはずだけど?もしかして、朝、会わなかったの?」
「…いなかった。いつも現れる場所に」
「へぇ〜珍しい事もあるんだねぇ!槍でも降るんじゃないの〜?今日!」
「…」
本当に珍しい事もあるものだ。アイツは俺の出勤日には欠かさず…あの廊下で現れてたというのに。
「何々〜?気になってる〜?」
…
「別にそんなんじゃない。」
「ほんとかなー?とか言って、実はめっちゃ気になってるんじゃないの〜?」
…
「…早く仕事しろ。ギノに言い付けるぞ」
「わっ!コウちゃん酷い〜」
「…。」
…別に気になっては…いない。
++++
その日の夜、仕事も終わり、部屋に戻って身体を休める。特に大きな事件は無かったはずなのに、何故か気分がすぐれない。…体調が悪い訳でもないのに。
いつものようにソファに寝転がり、ネクタイを緩めた。
「…」
―結局、今日は一日中、現れなかった。…非番で出かけているのかと思いきや、そうでもないらしい。皆、口を濁してアイツが何をしているのか教えてはくれなかった。
『ほんとかなー?とか言って、実はめっちゃ気になってるんじゃないの〜?』
…。
「…佐々山の事を好きじゃない事に…驚いただけだ。」
…
『好きだよ!大好きだってば!ずっと前から!!!!』
「…。」
俺は…
―コンコン
「コウ?いるか?」
扉の向こうから、知ってる声が聞こえた。
「とっつぁん?」
「酒持ってきたんだ。飲まねぇか?」
「おう、いいね」
部屋の扉を開け、同じく仕事終わりのとっつぁんを迎え入れた。
片手を塞いでいる、その酒瓶は、何を意味しているのだろうか。
深い事を考え出すとキリがないので、浮かんできた思考は消して、ソファに通す。
「疲れてたか?」
「いや、大丈夫だ。」
「久しぶりにコウと酒が飲みたくてな。」
「俺もだよ、とっつぁん」
空きのグラスを二つ分出すと、彼は酒を注いでくれた。すぐにそれを手に取り、身体に流す。
「…で、どうなんだ?」
「…何の話だ?とっつぁん」
「とぼけてんじゃねェよ。今日、コウの嬢ちゃんの姿が見えなくてイライラしてたのは、どこのどいつだ?」
「…」
「…好きなのか?」
「は?」
…俺が??好き?
「寝言は寝てから…」
「おいおい、本気でそう思ってんのか?」
「…」
「自分の気持ちに疎いとかそういうオチか?勘弁してくれよ」
「…アイツをそんな風に見た事は無い…」
「…まぁコウがそう言うなら構わねぇけどよ。…俺たち番犬は、この先、生きていけるかさえ…わかんねぇんだ。伝えるなら早い内がいいぞ。」
「…」
「説教しに来たわけじゃねぇんだ。…それともあれか?お嬢ちゃんの事が好きとかいうオチじゃねぇだろ?」
「…常守?常守こそ、そういう対象じゃない。」
「じゃあ、コウの嬢ちゃんは?」
「…」
「…後悔するなよ。」
「…わかってるよ、とっつぁん」
……わかってるんだよ。
―酒に酔ったのか、頭がうまく動かない。
行方知らずの貴方ですから
(はーんっ!慎也ぁっ!会いたかったぁ〜!)(…なまえ…何で昨日…)(昨日一日、慎也に会えなくて辛かったぁ!禾生局長に慎也一日面会禁止令出されてたのぉー!)(…なんでまた)(佐埜蟻から公安局に苦情来たみたいで、それの責任とれって事で…)(…)
20160513
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