【第十章】―とんだ喜劇の幕開けだ―


 
 ―慎也が人質にとられた。


 事の発端は、いつもと同じ。パトロール中にエリアストレスが上がったので、その根源を探して追い詰めたら、相手が逆上した。一般人多数を人質にして、コンビニに立てこもりを始めたので、一般人解放を交換に、慎也が人質に。


 「さて。どうするか…」

 現場にいるのは、いつものメンバー。慎也だけは、コンビニの中だが。

 「ギノちゃん、慎也と会話はできるんだよね?」
「ああ、犯人に超小型携帯電話の存在がバレない限りな。」
「でもコウちゃん、今ドミネーター持ってないからなー。下手な事して、相手怒らせちゃマズイんじゃなーいの?」
「それも一理あるな」
 「…」

 ―私が人質になればよかった。今、心底後悔している。
 いつものように、自分を自ら犠牲にするように、人質を志願した彼。そして、いつもだったら私はその場で言っただろう。

 “慎也が危険な目にあうのは嫌っ!私が人質になる!”

 …まぁ、こんな事を言っても結局、執行官の慎也が人質になった方が良い、という結論でまとまるのだが。

 …今日は、言えなかった。彼が危険な目にあうのは嫌だ、と。言う事ができなかった。…躊躇してしまった。


 『相手も迷惑なんじゃない?ずっと想われ続けるの。』
 
 私の今まで行ってきた行為全てが、慎也にとって迷惑だったとしたら。…

 「(言えない…)」
 「向こう側からの要求とかは無いのか?六合塚。」
「突発的におこした立てこもりよ…要求も何もないでしょう。パニックになって、とりあえず達籠ってみた、くらいのレベル」
「まだ向こうはパニックから解放されてなさそうだな…下手に刺激して狡噛に危害を加えられても困る…」
「…」

 そう、言えない…言うのが怖い。

 「おい、何か案を考えているか?」
「…」

 言って、また拒否されたら…

 「…おい」
「……」

 私もう…

 「おい!!」
「!」
「何ボーッとしてるんだ!緊急事態なんだぞ!」

 ……しまった…

 「ごめん、ギノちゃん…」

 慎也の事で頭手一杯で、仕事に集中してなかった…

 「…ハァ。なまえが行け」
「え?」
「相手側に正面から接近しろ。常守には荷が重いし、執行官の話を相手側が聞くとは思えない。俺や縢、六合塚はお前が相手の注意を引いている間に裏口から侵入し、ドミネーターを撃つ。」
「…」
「お前と征陸が正面から接近し、話をしろ。何でもいい、相手の注意がお前たち側に行く話ならな。途中、それで相手の注意が逸れて狡噛が逃げる事ができたら、それで良し。できなくても、相手がこっちに気付く前にドミネーターで撃つ。……異論がある者は?」
「…」
「もし、裏口に侵入した時点で俺らの存在に気付かれちゃったら、どーすんのさ?」
「そうだとしても、相手は一人でパニックをおこしている状態だ。三方向同時に注意を向ける事はできない。隙をついて、誰かがドミネーターを撃つか、狡噛も相手を抑え込むなり何なりするだろう。」
 「わかった、やろう。」

 ―一歩、踏み出して。…いつまでも、このままじゃ、いけない、から。
 コンビニの真正面に立つ。ギノちゃん達は既に裏口に回った。

 「どうやって注意をそらすつもりなんだ?」
「まぁ、征さん。見ててよ」
「…」

 躊躇なく、正面の扉を開ける。

 ―ガンッ

 「失礼しまーす」
「「!」」

 目の前に、拘束されてる慎也と、犯罪係数が上がった“相手側”がいた。

 「なまえ…」
「お、おい…!誰の許可を得て勝手に入ってきてるんだ?!コイツがどうなってもいいのか?!」
「…」

 店内は荒れていて、商品がそこらじゅうに散らばっている。
 どこから見つけてきたのか、慎也は相手からナイフを突きつけられていた。慎也にアイコンタクトを送ると、受け取ったのか、コクンとうなずいた。

 「落ち着いて。」
「お、落ち着けるか!俺はここで捕まったら…一生外にでられないんだろう?!今まで…犯罪なんかおかしてないのに!」
「貴方にも愛する人がいるでしょう?」

 ―そう、愛する人が。

 「関係あるかっっ!!犯罪係数が上がったら家族なんて…」
「私にもいるのよ、好きな人。」
「ハァ?」

 ―そう。

 「その人はね、犯罪係数が高くて、外を自由に歩くことができないの。」
「…」
「全然脈なくて…でも好きで…最初は一人で話しかけるのも無理で、部下についてきてもらってた。」
「それとこれと何が関係してるんだよ!!!」
「でもね、私気付いたの。想うのは私の勝手だと思ってたけど、想われるのも迷惑ってこと。」
「ハァ?だから、それとこれと何が関係…」
「…関係?ごめん、全くない。」
「ハァァ?!ふざけてるのもいい加減に…」

 『犯罪係数302、執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除してください』

 「は…」
「時間稼ぎでした、残念」
「もう、遅い。」
「ふざけ…うあああああ!」

 ―対象は私の目の前で、ギノちゃんの手によって排除された。




++++




 「大丈夫?慎也」
「ああ、悪い。」

 拘束されていた腕を解放し、立ち上がらせる。

 ―今、言ってしまおうか…

 「あのさ…」
「ん?」

 本人の目の前で言っちゃったから、あれなんだけど…

 「ごめんね」
「…?」
「今まで、ずっと気持ち押し付けてて。」
「…」

 慎也は優しいから、迷惑だと思っても言えなかったんだろうし、…たとえ慎也が、私は佐々山の事を好きだと思ってても。

 「慎也の気持ち考えてなかったよね。」
「…」

 ―そう、私もいい加減。



 「…私、もう、慎也の事、諦め…「好きだ。」」




 …。
 は?????




 「…」
「い、ま、なんて…」
「…二回は言わない。」
「えっ?!」




  とんだ喜劇の幕開けだ
(だ、誰の事が?)(…言わせるつもりか?)




++++

 ―いい加減、歯車は、回りはじめるのだ。
 ―ずっと、押し続けている限り。
 ―私のこれからの歯車も。
 ―慎也の歯車も。
 




20160513












【おまけ】

 「ねぇねぇ」
「…なんだ」
「慎也、私の事好きなんでしょ?ねぇねぇ」
「…」
「えっ?!昨日好きって言ってくれたじゃん!まって私の空耳?勘違い?」
「…」
「ねぇ慎也ぁっ!」
「…」
「うぇーんっ、やっぱり慎也は常守朱が好きなんだぁ…」
「誰もそんな事言ってないだろ」
「でも常守朱は慎也の事好きだよ!絶対!」
「いや、…」
「先輩!それは勘違いです!」
「えっ?わっ!常守朱!いつからいたの?!」
「最初からいました!」
「(慎也に夢中で気が付かなかった…)」
「先輩は勘違いしてます!」
「なにが」
「私は、狡噛さんの事を好きではありません。」
「…でも、態度的に…」
「違いますっ!先輩と狡噛さんの仲を勘ぐってたのは、狡噛さんを好きだからじゃありません!」
「じゃあ…」
「実は…」
「?」
「私…」
「?なによ」
「先輩の事が好きなんです…!」
「え。」
「…」
「本当です!それで、狡噛さんは先輩の事好きなのかな、とか色々勘ぐっちゃいました…」
「え…ちょ、慎也…」
「俺は知ってたぞ。」
「うそん…」
「まぁでも、悪いが昨日からコイツは俺のだ。悪いな、常守」
「え!慎也もう一回言っ「狡噛さんじゃ先輩を幸せにできません!私が!」え、ええぇ…」
「どっちを選ぶんですか?!先輩!私ですよね?」
「い、いや、その」
「俺だろ?」
「いや、その、もちろんというか、あの」
「「どっちだ?/どっちなんですか?!」」
な。
「なんでこんな展開にーー!!!!!!」



  ―END―
 
 


【後書き】

 ここまで読破ありがとうございました。この作品は、短いようで長い間、ちまちま書いてた作品です。何が面倒だったかって、登場人物達の名前の漢字が変換で、でてこない、でてこない…。何て呼んでるのか知らない場合は適当に呼ばせてます。ご了承くださいませ。
 初めての電子書籍に試みたので、読みにくかったり色々不便おかけしたと思うのですが、なにとぞ優しい心で許して下さい。日々精進していきます!また次回お会いできたら光栄です。

 �添ui
 お題元はスイミー様。


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