「なまえならわかってくれるだろう?この美しさを」
「生憎、私は煙草や葉巻は吸わない主義なの。今度は誰の人骨か知らないけど、せっかくの人骨をパイプにしようとは思わないわ。」
「つれないなぁ、君は」
「そりゃどーも。」
「僕のお姫様が泉宮寺さんに懐いたら、さすがの僕でも妬いちゃうな」
「君に妬かれたら、この世には存在できない気がするよ。…さすがの私でも」

ゆらゆらと、揺れる炎が私達の姿を映し出す。暖炉から香る、わずかな炭のニオイに安堵感を覚えたのは、いつの記憶を引き出しているのだろうか。

「スリルによる活力…それは死と隣り合わせの危険な報酬です。」
「そうとも、狩りの獲物が手強いほどに瑞々しい若さが手に入る。」
「若さねぇ…あんたのその身体で言われても、説得力無いわ」
「そこまで仰せなら、次はとびきりの獲物をご用意できるかと」
「ほう…」
「狡噛慎也、公安局執行官。」
「…」

懐かしい名前に、眩暈がした。

「おびき出して、罠にかけます」
「私は、生け捕りにはしないよ。いいのかい?」
「もちろん。どうして生け捕りなんて?」
「君は気づいていないようだから言っておくが、狡噛慎也…その名前を口にする時、君はとても楽しそうなんだよ。」
「…」
「聖護…何で慎也を知ってるの?」
「この間、新しく見つけた僕の玩具だよ」
「王陵璃華子とやらは?…貴方の新しいお姫様だったんじゃないの?」
「なまえ…珍しい、妬いてくれるのかい?」
「…妬いてないわ」
「大丈夫だよ、なまえが考えているような事は何もない」
「ふぅん…高校生に手を出したのかと思ってたわ。夜遅く帰ってきた日は、あんあん鳴かせてきたのかと。」
「さすが、想像力が豊かだね、君は」
「…」
「想像力がなければ、怖いものはない。…コナン・ドイルからの引用だよ」
「意味は?」
「心配事はすべて自分の想像によるもので、現実になれば、ただ対処すればいい。そんなところだろ?槙島くん」
「さすがですね、泉宮寺さん。」






銃弾の音が地下に響く。私は、この非日常を求めていた―と言っても過言では無い。常守朱監視官の友人を囮に使うとは…聖護も人が悪い。慎也の考え、行動を完璧に予測した上でのおびき寄せ方。彼は、慎也と直接関わったことが無いというのに…

「何を考えているんだい?」

双眼鏡を覗きながら、楽しそうに問いてくる彼を尻目に、私も非人間的な身体を持つ悪趣味な爺と、いつまで経っても単純熱血馬鹿の非日常を肉眼で追う。

「何、とは?」
「君の望んでいた刺激があるのだから…もっと楽しそうにしても良いんじゃない?」
「…」
「その刺激の的が元同僚だと良心が痛むかい?」
「…そんなんじゃないわ」
「最初に出会った時のことを覚えてる?」
「…」
「図書館で。何が君を迷わせているのかと思ったが…まさか、君を迷わせたのは、あの男?」
「…」
「……沈黙は肯定と受け取るよ。それなら、ますます面白いね…狡噛慎也」
「…」

双眼鏡から視線をはずし、私へと視線を向けた彼は、楽しそうに笑っている。



「君の目の前で、僕が彼を殺したら…君はどんな顔をしてくれるんだい?僕のお姫様」

ゆらり、と彼の手が、私の頬を優しく撫でた。



銃声、銃声、銃声、



二人の人間が同じ場所から眺めている。ひとりは泥土を、もうひとりは星を。─ラングブリッジ「悲観と楽観」


20150210

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