さて、どうするか。つい昨日までは、ここに聖護やチェ・グソンがいたというのに。広すぎる家に、私一人は似合わない。

「ふぅ…」

とりあえず、彼の好きな紅茶でも飲んで心を落ち着かせるか。当たり前のようにティーパックを出してきて、マドレーヌも一緒に袋から出す。とりあえず、彼は迎えに来てくれると言ったけど。何もしないのは、性分に合わない。…身柄を確保し、その後、公安は彼をどうするか?慎重に考えなければ、私まで公安に捕まる事になってしまう。まぁ、公安で、私がどういう立ち位置になっているかは、知らないけど。慎重に行動する事に越した事は無い。

監視官だった自分だから、わかる。…普段は、一係が聖護を取り調べると思うが。…公安にとっては、“あの”槙島聖護だ。普段通りに扱うとは思えない。そして、ふと思い出す。局長のあの言葉を。佐々山が死に、慎也が執行官落ちした時に聞いた、あの言葉を。

「…藤間は消えたのだ。」

はぁ、と大きくため息をついた。残念ながら私は聖護ほど賢くは無いし、慎也など頭の回転が早い訳でも無い。チェ・グソンがこの場に居たら、状況も大きく変わっていたと思うが。…帰ってこない辺り、捕まったか殺された、な。そういう意味では、聖護は捕まったので、ある意味良かったのかもしれない。慎也は殺す気満々だったみたいだが。

「常守朱…」

情報としては知っていた。私の穴埋めの代わりに新しく配属された監視官。慎也と仲良くやってるらしいが。

「…今はどうでもいいか。」

一人は、寂しい。寂しさゆえに、無駄に話してしまう。

マドレーヌを紅茶につけ、しっとりとしたコレを口に含もうとした瞬間。無機質な電子音が部屋中に響いた。何事だ?と思う前に、音の発信源を探す。鳴り続ける電子音に、期待と困惑を混ぜ、探し当てる。

「…!あった!聖護の携帯…」

発信者名を見るも、そこには機械的な数字しか並んでいなかった。不信感は拭いきれなかったが、聖護からという可能性も拭いきれないので、恐る恐る電話に出る。

「…もしもし?」
―ふむ…その声は間違いないようだね。
「…?」

聖護の声じゃない?

「あの」
―久しぶりだね、みょうじ監視官。もう忘れてしまったのかい?
「…!禾生局長…?」

何で聖護の番号を…

―今、君が探している彼は…狡噛君では無さそうだね。
「…」
―君が探している彼は、今ここにいるよ
「!?」
―と、言ってもまだ寝ているがね。これでやっと…本を返せるよ。」
「本…?」




虔なる赤の使徒



「久しぶりに彼女の声を聞いたよ。」
「…」
「悪いが、勝手に君の携帯に電話をかけさせてもらった。」
「…藤間幸三郎、君は生前から彼女に興味があったのかい?」
「いや、全然?…でも、君がひどく大切に扱っていると聞いてね。少し興味が沸いたんだ。ウチの一係の狡噛慎也も、彼女に酷く執着しているらしいしね。…一応、君の為に、彼女も誘っておいたよ。彼女を置いて逝くのは、きっと心苦しいと思ってね。彼女は免罪体質では無さそうだが…まぁ、構わない。…しかし残念なことに、…来なかったみたいだが。」
「………まるでバルニバービの医者だな」
「なんだって?」
「スウィフトのガリヴァー旅行記だよ。その第三編…ガリヴァーが、空飛ぶ島ラピュータの後に訪問するのがバルニバービだ。バルニバービのある医者が、対立した政治家を融和させる方法を思いつく。二人の脳を半分に切断して再び繋ぎ合わせるという手術だ。これが成功すると節度ある、調和のとれた思考が可能になるという」
「…」
「この世界を監視し、支配する為に生まれてきたと自惚れている連中には何よりも望ましい方法だとスウィフトは書いている。」
「…聖護くんは、皮肉の天才だね」
「僕では無く…、スウィフトがね」

バン、と大きく揺れる音。激しく攻防する。少し寝ていたからといって、身体が鈍っているわけでは無いらしい。相手も激しく抵抗するが、彼の戦闘能力、頭の回転の早さにはついてこれない。原型も留めないままに、破壊される機械は、虚しさしか覚える事が出来なかった。


「君の口から、なまえの事を話されるだけで、怒りに囚われてしまいそうだよ…」


―もう聞こえていないだろうが。…

さて、ここで藤間幸三郎を殺したのは良いものの…これから、どうするか、だな。見た所、誰かを拘束する為だけの部屋では無さそうだ。出入口にロックがかかっているものの…何かしらの突破口があるだろう。地道に探していくしかないな。

「…」

とりあえず、目についたのは、藤間幸三郎が座っていたテーブル付近。鍵か何か無いだろうか?壊す方が手っ取り早いか?ふらり、と足をそちらに進めようとした時。

―あっさり扉が開いた。

「?!」
「聖護…!」

扉の先には。

「なまえっ、…?」
「助けに来たの!」
「…」

今、迎えに行こうとしていたプリンセスが立っていた。


『。…一応、君の為に、彼女も誘っておいたよ。彼女を置いて逝くのは、きっと心苦しいと思ってね。彼女は免罪体質では無さそうだが…まぁ、構わない。…しかし残念なことに、…来なかったみたいだが。』


―なるほど。

「ありがとう、丁度今、出ようと模索していたところだったんだ。」
「本当?じゃあ私、助けに来なくても大丈夫だった感じ?」
「そんな事ないよ。来てくれてありがとう。凄く嬉しいよ」
「…!うん。凄く刺激的だったわ。聖護が捕まってくれたおかげ」
「約束しましたからね、お姫様」
「じゃあ、とりあえず、このヘリを着陸させて、逃げましょう。あらかたのドローンは片付けといたわ。」
「頼りになるお姫様だね」
「元監視官様を、舐めないでよね!ドローンの弱点くらい把握してるわ」
「そういえば…着陸する前に…狡噛慎也に伝えたい事がある。狡噛慎也の番号は知ってるかい?」
「データBOXにはもう無いわよ…消しちゃったもの。あ、でも着信履歴からわかるわ。」
「よし」





―夜分失礼する、狡噛慎也の番号で間違いなかったかな?

20150212
「やっぱり家が一番落ち着くわね」
「そうだね」
「チェ・グソンは?一緒に捕まってたんじゃないの?」
「…彼は死んだよ。」
「…そうなんだ。」
「それより珍しく下着が赤だね」
「や、もっちょっと!どこ触ってるの!」
「別にいいだろう?何か問題でもあるのかい?」
「な、ないけど」
「赤の理由は?」
「聖護を助けに行くから、気合いいれようと思って…」
「!…はは」
「何笑ってるの」
「いや、つくづく君は面白いな、と思ってね」

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