『もし、僕が狡噛慎也に殺されたら』
『…辞めてよ、嘘でもそんな事、言わないで』
『なまえは僕と一緒に死んでくれるかい?』
『…』



「貴様は孤独に耐えられなかっただけだ」
「この社会に孤独でない人間など…誰がいる?」
「少なくとも…俺は、なまえと一緒にいた時間は孤独じゃなかった!」
「ほう…まだ言うのか。彼女はもう、過去の話と割り切っているのに」
「…っ」
「彼女にとっての今は、狡噛慎也…君では無く、僕なんだよ。」
「…ふざけるな!」
「誰もがシステムに見守られ、システムの規範に沿って生きる世界には、人の輪なんて必要ない…そう、彼女でさえも必要ない。皆、小さな独房の中で、自分だけの安らぎに飼いならされているだけ…。そういう意味では、君は、彼女に飼いならされていただけだ。」
「少なくとも、俺は貴様に比べたらマシだ」
「君だって…そうだろう?狡噛慎也。誰も君の正義を認めなかった。君の怒りを理解しなかった。だから君は信頼にも、友情にも背を向けて、たった一つの居場所さえ、かなぐり捨てて来た…そんな君が僕の孤独を笑うのか?」

第三者で見る、二人の戦闘。二人の位置からは見えない場所で、一人の女は観戦していた。

「はは…執着しすぎなのよ、慎也は。―佐々山だけじゃない、聖護や…私にも。」

のちに見えた、一人の女の影。その影には見覚えがあった。

「常守朱…」

何が彼女をそうさせたのかは、わからない。しかし、その女の影を見つけた瞬間、何か薄汚い気持ちが、心の中で渦巻いたのは、感じた。


愛と所有の陶酔とを混同してはならない。所有の陶酔は最悪の苦しみを伴う。人々は愛に苦しめられるのだと思っているが、そうではなく、その反対のものである所有欲に苦しめられるのである。─サン・テグジュペリ「城砦」






「ダメ…」
「これは俺と槙島と…アイツだけの問題なんだ」
「前に言ってた…元監視官ですか?」
「ああ」
「…狡噛さん…!」

それぞれの想いを胸に、想いは交わる事は無い。



「なあ、どうなんだ?狡噛慎也…。君はこの後、僕の代わりを見つけられるのか?」
「―いいや、もう二度とごめんだね。アイツも返してもらう。」


聞き慣れた銃声音が、遠くで、彼らを追っていた女の耳に入った。


「聖護…?」



最後の指先



―以前、聞かれた疑問の答えを今。

「私も…死んであげるわ、聖護」

慎也に撃たれて、虫の音の聖護を見て、泣き崩れた。慎也は、もうここにはいなかった。放っておいても死ぬと判断したんだろう。ここまで瀕死の彼は、初めて見た。―独りは嫌だ。何もかも捨てて、貴方を選んだのは、私も同じなのに。

「…なまえは生きるんだ。」
「何で…?置いて逝かないでよ!」
「…一緒に死んだら、僕はなまえを迎えに来れなくなる…」

触れた手はとても冷たくて、あの夜、愛し合った時の温もりは無かった。ただ冷たくて、それでも離れたくなくて、彼を抱きしめる事だけで精一杯だったのだ。でも、なんて世界は残酷なのだろうか。私と彼との体温の差をはっきりと感じてしまう肌は、今は何よりいらないモノで、五感全てを千切り取って欲しいと、切に願った。私の泣き声だけが、今の彼に届きますように。最期に聞こえた音が、私でありますように。







20150213
一段落ついた頃、彼から電話がかかってきた。
―これからどうするんだ?
「どうしようかな…」
―俺と来い
「?」
―俺はもう犯罪者だ…れっきとしたな。これから、公安局に追われる身となる。
「…それ聞いたら、一緒に行きたくなくなっちゃうよ」
― 一緒に追われてくれ。…愛してるんだ。なまえがいなかった一年間、何回、気が狂いそうになったか、わからない。お前がいないと、駄目だ。
「プロポーズみたいだね」
―そう受け取ってくれて構わん。これから先…俺の人生をお前にやる。だから」
「守ってくれるの?王子様」
―…もちろんだ、プリンセス


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