この世は…なんて美しいのだろうか。息を吸えば酸素が身体中に流れる。耳からは鳥のさえずりが流れ込む。目からは…仲間の死体が流れ込んだ。

「なまえ」

人類最強と呼ばれている男は、怒声で、私の名前を呼んだ。何、と一言返せば集中しろお前は援護で十分だ、と一喝。私とリヴァイのやりとりを周囲はハラハラしながら見守っている…はずだった。…そう、…昔はリヴァイ班の皆がここに、いたのに。もういない。理由は簡単。死んだから。

「何様よ」
「…そういう弛みが、死につながる。」
「ハッ」

二人で、しかも壁外で馬を走らせながら話す会話じゃないわね、と会話を無理やり終わらせた。皆死んでいくのだ…この世界では。もう仲間なんていらない。中途半端な信頼関係なんていらない。死んでいく者は本当に勝手すぎるのだ。私に何も言わずに勝手に死んでいく。突然。死体すら確認できぬまま、言葉だけで告げられる。死んだよ、あいつは、と。自分の目でその真否を確認できぬまま、次々と死んでいく。確認する前に新しい人が死に、告げられる前に死んでいく。それならば…、と私が選択した答えは自分しか信じない、という事だった。たとえ、この先どういう結果になるのか知っていても。確信はないから信頼なんてできない。…ならば、もう、死んだという事さえ告げられない距離にいたい。

彼が死んだら…きっと、私は。

「無知って…罪よね」
「何の話だ。」
「この世は…残酷と言うことよ」
「…」
「知らないって恐ろしいわね」
「…だから、」
「ねえリヴァイ。」
「…」
「なんで私が死なないか、知ってる?」
「…」
「成績は中の下。運動能力も普通、バランス感覚も普通。何もかも普通なのに何で壁外で毎回帰ってこれると、思う?」
「…それは、」
「なんで毎回都合よく私以外の人が死んで、私だけ帰ってこれると思う?知ってるわよ。エルヴィンが私の事警戒してること。リヴァイが私を庇って、あいつは運が良いだけだ、って言ってくれてること」
「…!」
「ねえ…なんでかな?」

乾いた笑顔を彼に向けたら、苦虫を潰したみたいな顔をしていた。せっかく整った顔なのに、そんな顔したら勿体ないよ、といつもだったら言うのだけど。人が死にすぎた。私は無知ではないのに、そのまま見過ごした。知っていたのに、彼らが死ぬこと。このまま事が運べば、死ぬこと。そして貴方…が傷つくことも知っていたのに私は“無知なフリ”をした。何もかも、知らないという愚かな者の役者の物まねごっこ。

「無知って、罪よね。」
「お前、それ以上は」


『本当皆…馬鹿。泣いて生にしがみついていたら教えてあげたのに。」
「ねえリヴァイもそう思わない?」
「近くに死ぬ時期がわかる人がいるんだよ」
「なんで皆聞かないのかねぇ。私、ヒントはいっぱい出してあげてたのに。」
「でもねリヴァイ以外はいらないかな…と思っちゃって』

「…っお前!」
「怒るの?リヴァイ。」
「俺は…」
「今、ここで巨人達の動きを止めてあげてもいいんだよ?」
「お前…一体…何を言ってるんだ」
「そのままの意味だけど」

理解できない?
無知って本当に罪ね、と
私は笑ったのだ。確かに。

訳がわからない、と続けた彼に理解力が乏しいわね、と蹴散らした。無知は罪。知らないフリをするのは…大罪なのかもしれない。罪の重さに耐えきれず私は、今から力に見合っていない、無責任なことをしようとしている。

「ねぇリヴァイ」
「…なんだ」
「私、疲れちゃった。」

せめて普通のまま、こっちに来たかったよ、と続けた私の背後から、嫌な音がした。そう、この音は知っている。身体中に流れてくる地鳴り。品のない動きで殺戮行為を繰り返す卑しい生き物。リヴァイはすぐさま立体起動の準備をしたがそれを目で止めた。



「みててよリヴァイ」

「うまくできたら」

「ご褒美…ちょうだいね。」




卑しく笑って、私は卑しい生き物に制裁を下した。卑しく笑って、馬に乗ったまま、「死んで良いよ。」と許可を、した。一気に散らばる卑しい生き物の死体。ああ…よかった。今回は仲間の死体じゃないわ。


罪の重さが測りきれなくなった。いつも貴方と同じベッドで寝ている時だけは測らなくていい気がしていた。でも同じベッドで悲しむ貴方をみて私は測らざるをえなかったのだ。罪の重さと、無知の愚かさを。

卑しい生き物は死んで、束の間の、壁外での安寧。二人しかいない草原に、私は世界は美しい、とつぶやいた。リヴァイは先ほどから何も言葉を発さない。ただ私を見て固まっているだけ。時間が止まったように。





「家畜の安寧、虚偽の繁栄、死せる飢狼の自由を…」




この言葉を綴った後、突然私を抱きしめたリヴァイに向けて送った言葉は…





世にも美しい不可視の花束





拍手 20141112〜
囚われた屈辱は。
さぁ、私を解放してちょうだい。

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