記憶がほとんどない。…いや、覚えてるはずなんだけど、覚えてない。


うっすらと目を開けると、そこは見知った天井だった。服は寝間着で、机には飲みかけの水が置いてある。外を見ると明るい。今は何日の何時なのかわからなくて、一瞬かなり焦った。

あれ?仕事は?…

携帯を開くとゆっくり休め。と一言アキラさんからラインが来てた。自分の状況が全く把握できない。とりあえず今は倉元と飲んだ次の日の昼過ぎだという事だけわかった。

昨日倉元と飲んだことは覚えてる。飲みすぎてタクシーで帰った事もぼんやり覚えてる。…タクシーを降りたらハイセがいたような気がしたんだけど……あれは夢?…。覚えてるけど、自分の記憶が信用できない。ハイセがいるなぁ、とぼんやり思った気がするけど気持ち悪さがピークで…。家に帰ってすぐにベットにダイブして寝た。…と、思う。

ん?てか仕事!…今日あったよね?
ん?でもアキラさんからゆっくり休めってラインきてたし…無意識に休みの電話いれた…のかな、私。

?

でも無断欠勤だったら…。いやそれはかなりやばい。バイトじゃないんだから。いや、バイトでも無断欠勤はかなりやばいけど。

不安になってアキラさんに電話をかけた。ワンコールで繋がる。



「…アキラさん?」
―ああ、なまえか。大丈夫か?調子は。
「え、ええ…あの、私…記憶があんまりないんですけど…休みの電話いれました?」
―はぁ?何言ってるんだ、きたぞ。電話。
「あ、ああ…そ、そうでしたか。良かったです…。」
―ハイセからな。


…。え。

頭は真っ白。理解が追いつかない。


―なんだ、お前の想いが叶ったのかと思ったんだが。
「え、や、あの…?」
―今日の朝、お前の携帯から連絡が来たぞ。休みのな。…声はハイセだったが。
「…。」

夢じゃなかったのか。タクシーから降りて見たのは…夢じゃ、なかった。


―とりあえず今日はゆっくり休め。じゃ、今から会議だから切るぞ。

ブチッツーツーツー…

「…。」




ふぅううぅうううううう。

心臓がバクバクしてる。試しに身体全体の酸素を吐き出してみたけど苦しいだけだった。そりゃそうだ。

どうしよう、え。なんで私の家の前にいたんだろう?ていうか私の失態をみたって事だよね?うわそれは最悪だ。死にたい。いつもはあんなに飲まないんだよって言い訳したい。ていうか家の中はいったのかな?入ってたっけ?…覚えてない。入ってたような気がする。え、まって。下着干しっぱなしなんですけど。部屋片付けてないから汚いし。これ見られたのか?最悪だ。嫌われた。絶対嫌われた。…あ、そうだ。そういえばさっきアキラさんが朝にハイセから私の携帯から連絡きたって言ってたんだ。ということは…朝までいたって事?…化粧落としてないし…ヨレヨレじゃん………この顔見られたのか…

「ハァ」

ため息しかでてこない。この一言につきる。

重い身体を引きずって洗面所まで行く。
とりあえずお風呂に入ろう…化粧も落としたい。



フラフラと廊下を歩いていると、ふと白いものが床に落ちてるのが目に入った。

「ん…?」

ゴミかな?と思って手にとると、それはコンビニのレシート。

コンビニで何か買ったっけ?と思って、買ったものを確認する為に視線を下にうつす。はっきり見えた言葉。見間違いでは無い。私はカタカナが読める。



コンドーム0.01mm



本日二回目の頭真っ白。

なにこれ。私買ってない。ということはなに。

まさかというか、え?



やっぱり理解が追いつかなくてレシートを持って動けなくなった。




+++




ああ、ニヤニヤする。

それを隠すように口元を抑えた。

「(今は捜査中だ…しっかりしないと。)」
「サッサン?具合でも悪いのか?」
「いや、大丈夫。」

平然を装って何でもないフリをした。今の気持ちの高ぶりを皆に知られるわけにはいかない。珍しく今日はクインクス班全員が揃って捜査をしてるんだ。気を引き締めないと。

しかしそうは思うものの、頭の片隅に昨日の出来事が蘇る。

たまたま昨日は捜査の途中でなまえちゃんの家の近くまで来た。今日は休みなのかな?と思ってラインをいれたけど、返答無し。休憩時間も終わりそうなので、とりあえず倉元くんに飲みの誘いのラインをいれた。…珍しく飲みたい気分だった。なまえちゃんの事を振ったくせに近くにいたいと思ってしまう自分と、でも近くにいちゃダメだと思う自分。どちらとも決別できなくてフラフラしてる。

倉元くんとのトークを見ると送った言葉に既読がすぐついたので、返事くるかな?と思って開いたままにすると案の定すぐに返ってきた。

『今、なまえちゃんと既に飲んでるよーハイセも来る?』

ドクン、と心臓がバクバクした。何で倉元くんがなまえちゃんと?二人は仲いいのか?…
何気なくしたラインが、僕にとっては爆弾だったらしい。

居ても立っても居られなくて、どこで飲んでるの?と返した。またすぐに既読がついて、飲んでるお店の名前が送られてきた。場所も比較的遠くなかったので、すぐにタクシーを捕まえる。

しかし状況はすぐに変わった。そのお店に向かっている途中に倉元くんからラインがきた。



『なまえちゃん気持ち悪いっぽくて、先帰った。悪いことしたなー。ハイセ来るなら、俺このまま店にいるけど、どうする?』



…

瞬時に僕の中で選択肢ができる。

このままお店に向かって倉元くんと飲むか、
なまえちゃんの家に戻ってみる、か。

答えは一つだった。


『なまえちゃんの様子心配だから、ちょうど家の近くにいるし、ちょっと見ていくよ。また誘うね』


我ながら狡い奴だと思う。心配だとか言っておいて、本当は彼女に会いたいだけ。タクシーの運転手に謝って、元来た道を戻ってもらう。乾いた笑いがでた。

家の前まで戻って少し待っていると  ちゃんが乗っているであろうタクシーが来た。真っ青な彼女をみて、相当飲んだな、と思ったのと同時にチャンスだと思う。甲斐甲斐しく世話をしよう。心配だ、と言って優しい自分を演じて、彼女を僕のものにしたい。僕から離したくない。好意も一歩間違えると吐きそうなものに変わる。僕はその吐きそうなものに一歩ずつ近づきつつあった。


「なまえちゃん、大丈夫?」
「ん…ハイ、…セ…え?」
「さ、早く家帰ろう。」


君の世話を僕にさせて。
どろどろに甘やかしたい。
甘やかして甘やかして僕に依存して。





本当に体調が悪い彼女はすぐに寝てしまった。寝顔を見ながら、頭を撫でる。
ああ、本当に可愛い。僕のものにしたい。君に“佐々木ハイセ”を縫い付けたい。

同じベットには入らないが、なまえちゃんの寝顔を見つつ、仮眠をとる。携帯のアラームで目を覚まして、起きないであろう彼女の為にかつての上司に連絡をいれた。…彼女の携帯で。

『もしもし?なまえか?どうした?』
「…アキラさん、おはようございます。」
『…?…その声は…ハイセか?』
「はい、…あの、なまえちゃんは今日は体調が悪いみたいで…休ませていただけますか?」
『…まぁ連日出勤だったし構わんが…』
「ありがとうございます。僕は出勤します。…また後で」

アキラさんに何か聞かれる前に電話を切った。

コンビニで買って来たコンドームのレシートをわざと落としていく。
現物自体は自分のカバンに入れて。もちろん封は切っていない。


…なまえちゃんの今後の反応が楽しみだなぁ、なんて思いながら彼女の家を出て行った。






望むのなら傅いてみせたっていい。


僕から離れないで。僕を忘れないで。本当は君を手に入れたい。美味しそうな君を喰って僕の中に淹れたい。

なんでハイセがコンドーム…私ヤってない。私とヤろうとしたの?それとも彼女…本当はいるの?



20151004

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