2018/06/05

卒業バカメンタリー

堀口くんがド性癖な女が通ります
1話の原作沿い??です



「あの、僕たち、よ、四人できてて…!」

顔を伏せてどもるように喋るその男の子に、私の友人は「やばいよ」と呟いて顔をひきつらせる。しかし私にはその顔に見覚えがあった。

「堀口学!?」
「え…っ」

名前を呼ばれたことで上がったその顔はやはり堀口学、その人のものだ。

同じ大学、同じ学部の男子生徒。特に学部に友達がいるような感じはなかったが、サークルが同じ男の子とつるんでいるところをよく見る。頭は学部の中でもとびきりに良くて、私みたいなギリギリ在籍できているような落ちこぼれとは正反対だ。以前読んだ芥川のレポートはとても痺れるものがあった。

それに前髪が長かったり、メガネをかけていたり、服装がダサいぐらいで、見た目はすごく整っていると思うのだけれど、多分それを知っている人はほとんどいないだろう。
え、あんた知り合い?と聞いてくるのは高校時代の友人で、今は違う大学に通っている。

「有名人だよ、堀口学。めっちゃ頭いいの」
「いや、あの、ぼ、僕は…っ」
「どうしたの堀口くん?こんなところにいるなんて想像もできなかったんだけど…」
「ちが、あ、その…っ。ちょっと、お、お時間いただけたらっ」
「なにぃ?ナンパ?」
「な…っ」

ニヤニヤ顔で聞く友人の言葉に堀口学は顔を真っ赤にし、その鼻から赤い液体を滴らせた。

「え!?」

ドン引く友人をよそに、私は慌ててハンカチを取り出し、彼の鼻に押し当てる。身長の高いこと高いこと。180ぐらいあるんじゃないだろうか。

「上むいちゃダメだよ。そのまま下向いて、小鼻押さえるの。そう、5分ぐらい。そしたら止まるから…」

彼は何も言わずこくりと頷く。小動物みたい。とか言ったら多分失礼だけど。相手は偏差値70越えの超天才だぞ。

「私たち先行くけど…?」
「あーうん。ごめん。また後で」

呆れた友人たちは時計をちらりと見てイルミネーションの光に埋もれて行く。私は堀口学を誘導し、鼻を押さえたままなんとかベンチに座ることができた。

しばらくすると血は止まって、彼は小さく「すいません」と首を垂れた。別にいいよとハンカチをしまおうとすると、「あ、洗ってきます!」と手を差し出されたが、まあ別にそこらへんで売っているやすいものだし、「気にしないで」と笑っておいた。

「それにしても、堀口くんどうしたの?」

再度その話を切り出すと、彼はパッと顔を上げて、私をまっすぐ見つめてきたと思ったら「じ、時間ありますか?」と聞いてくる。「そりゃあるけども」あんたの様子が気になったから時間を作ったんだって、と思いつつ、天才というのは得てしてなにかが欠けているのだろうと自己完結。

「僕、あの、今、女の人を探してて…」
「人探し?」
「いや、そ、そうじゃなくて、その、い、一緒にあそんだり、とか、そういう…」
「ナンパ…?」
「ま、その、そうというか、ま、うん、そん、そんな感じです…」
「堀口学がナンパ!!??」

それはあまりにも「イコール」にならなさすぎないか?驚きすぎて思わず立ち上がってしまった自分が恥ずかしくて、こほんと咳払いをしてから座り直す。それにしても淀みのないまっすぐな目だ。誰かに命令されたわけではないだろう。でも自主的…って言うイメージもない。

ていうか単純に私が気になっていた人(恋とかではなく、人間的に、だ) からそんな話を聞くとは思わなかったのだが…、変なところで期待を裏切る男だ。

「な、ナンパねぇ…。うまくいきそう?」
「え、いや、その、ど、どういったらうまく行くのか全然。うまくって、どういう感じでしょうか…」
「あーーー」

これは随分こじれてる。
自信なさげな彼を見ているとなんだか申し訳ないような気持ちが湧き出てきて、私は言葉を探しながらゆっくり口を開いた。

「まぁ、その、成功してるんじゃない?」
「え…?」
「ナンパ」
「ど、どういう…」
「堀口くん、私のことナンパ成功してるじゃん」

緊張をほぐそうとそう半ば冗談で言ったのに、彼はぱーっと表情を輝かせた。あ、やばい。

「じゃ、じゃあ!僕に、ち、つ、ついてきてください!!」

「あ…ハイ」

自分で言った手前断れない。仕方なしに私は頷き、満面の笑みの彼に腕を半ば無理矢理引かれて立ち上がる。もう片方の手で「ちょっと合流できないかも」と友人にラインを送って、それを鞄にしまった。なんか、とんでもないことをしてしまったような気がする。




何だかんだ続きを書きたいと思っているもの

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