「え?ユーリと私の関係?」
「差し支えなければ…」

ぽやんとテレビを見ていたあの女性に質問を投げかけると、これまたぽやんと彼女は笑った。そして、うーん…と微笑んだまま悩み出す。手に持ったままの布巾は、店を手伝っていた証拠だ。無理言って泊まらせてもらっているから、少しでもお手伝いくらいさせて欲しいと彼女が願い出たからだ。

そんな彼女も、週末の温泉on iceが終われば結果がどちらにせよ帰ってしまうのだろう。ヴィクトルとユーリと正反対のマイナスイオンばかりの彼女には、まだいてもらいたいような気がする。が、そんな彼女の背後に睨むようなユーリの姿が見え、ぶるりと勇利は体を震わせた。

「詳しいこと言ったらユーリに怒られちゃう。うーん…ユーリはね、こんなポンコツの私を必要としてくれるの」
「…でも、スケートに関しては…」
「えへへ、全く!知識もないし運動音痴だから指導なんてできないよ!なんにもできない。それなのに、必要としてくれた。それだけで十分、理由なんて」

伏せたまつ毛は彼女を儚く見せた。こんなに、綺麗な人だっただろうか。乾ききっていない濡れた髪が背徳感を倍増させ、旅館の浴衣が色気を際立たせた。

するりと彼女の頭に情景が入る。そう、あれはユーリと出会った年。

運動音痴の為何をやってもうまくいかず、記憶力のない頭は勉学を厳しくさせた。ぼんやりとした性格のせいで人一倍怪我をし、弱い体は何度も不調を訴えた。そんな彼女に、厳格な父は苛つきを覚え、母は諦めていた。その出来ない部分を全て吸収したかのように、彼女の弟は何でもできた。勉強も運動もできてしっかりしていて、健康。次第に両親は姉を蔑ろにし、弟に全ての愛を注ぎ込んだ。

そう、ロシアに赴いたのも弟が行きたいと言ったから。弟が、姉もと言ったから。そして気分で弟がスケートをやってみたいと言ったから、彼女とユーリは出会った。

天使様に出会ったのだと、心の底からそう思った。引き止めてくれたユーリの瞳は今でも忘れない。とっても綺麗でまっすぐで、心が掴まれた。母国語しかできない、体も弱くて頭も悪くて、運動もできないのに。彼は、側にいろと言ってくれた。こんな出来損ないの私を、必要としてくれたのだ。

あの時のユーリは、救世主だった。思い出のアルバムを閉じた女性は緩く微笑み、勇利に笑いかけた。

「私は、ユーリがだーいすきってこと」

突如、ガタタッと階段の方から何かが落ちる音がした。


2018/02/08