寝ていると思っていたトンパさんは、どうやら気絶をしていたらしい。
私は必死に、絶対に傷つけたりするようなことはしないと説明すれば仕方なくではあるけれど納得してくれたようだった。
クラピカ達の道は、多数決の道。5人の手首につけられた腕時計にはマルバツのボタンがあって、課題が出される度にそこで多数決を行うらしい。私の時計にそのボタンはなく、ボーナスアイテム扱いらしいから私は選択には加わらないようだ。
部屋から50時間は出られないという理由や経緯を聞き、クラピカやキルアの戦闘の話題に驚いたり、部屋にあったゲームをしたりと時間を潰し、やっと部屋から出られるようになった。残された時間は10時間もない。
登り階段と下り階段で選択を迫られ、30分走り続けると元の場所に戻ってきてしまう。多数決の選択を幾度もされ、電流クイズに○×クイズ、地雷付き双六、巨大な岩に追われたり…一筋縄ではいかない試験で疲弊していく。けれど、ずっと一人だったから皆といることに不思議と恐怖はなかった。
迷路にいったり登ったり下ったり、今何階にいるのかもわからず、服もボロボロになってしまった。息を切らしながら何十回、何百回目かの扉を開けるか開けないかの選択。一つだけ×が入ったことに、レオリオはトンパさんに掴みかかる。いい加減にしろと怒鳴るが、×を押したのはゴンで、間違って押してしまったらしい。それを聞き怒りを鎮めるレオリオに、今度はトンパさんが眉を釣り上げる。
口論が飛び交い、クラピカが止めるも今にも二人は今にも殴り合いをしてしまいそうだ。胸元で手を握りしめ、その様子に肝を冷やす。喧嘩なんて、しないでほしい。
「見なよみんな、どうやら出口が近いぜ」
先に扉の先に向かったキルアの一言に、一同の顔色が変わる。駆けてゆけば、大きな女性の上半身の像がある、大きな2つの扉。女性の像から聞こえる音声は、扉を選べと告げる。
””それでは扉を選んで下さい。道は2つ……6人で行けるが長く困難な道………4人しか行けないが短く簡単な道””
「!」
””ちなみに長く困難な道はどんなに早くても攻略に45時間はかかります。短く簡単な道はおよそ3分ほどでゴールに着きます””
…ここに来て、人数制限の道を出してくるなんて。45時間の道が行けるような道筋は、今まで用意されていない。この選択に迫られ、仲間割れが目的なのではないだろうか。
現に、その声は短く簡単な道ならば手錠に2人が繋がれたら扉が開くというのだ。その2人は時間切れまで動けない。
仲間割れをしていても、仲良く進んできても、ここで大きな選択を迫られる。ドクドクと嫌な音を立てる心臓に、ぐらりと目の前が小さく歪んだ。
「……さて、先に言っておくぜ。オレは×を押す。そして、ここに残される側になる気もねェ。どんな方法であろうと、4人の中に残るつもりだ」
一番に告げたレオリオの言葉に、背筋が冷たくなっていく。戦えと言わんばかりに揃えられた多種多様の武器が部屋に用意されていた。嫌だ、みんなと戦いたくない。逃げるように俯き、外套を握りしめる。
「オレは○を押すよ。やっぱりせっかくここまで来たんだから、6人で通過したい」
「ゴン」
「イチかバチかの可能性でも、オレはそっちにかけたい」
「…!」
ぱ、と弾かれるように私は顔を上げた。真っ直ぐにそう言ってくれたゴンに、きゅっと耐えるように唇を噛む。でもそのゴンの発言に、キルアはあと一時間もない、短い道を選ぶしかないと声をあげた。そして、自分も4人の中に入るつもりだと。
そう、これは仲良しこよしの遊びではない。ハンターズライセンスを取るための試験なのだ。それは頭ではわかっているのだけれど、どうしたら良いのか考えがでない。
「残す2人の内1人はこの女でいいだろ?」
「!」
「そのための”ボーナスアイテム”なんじゃないのか?」
トンパさんが私を指差した。心臓が、大きく嫌な音を立てる。一斉に集まった視線に咄嗟に俯いて、震え始めた手を握る。爪を立てて耐えようとした時、目の前に影ができて思わず顔を上げる。その姿は、金髪の見慣れた後ろ姿。
「…クラピカ、」
「ナマエをもの扱いするな」
庇うように立ちふさがってくれたクラピカの姿に、じわりと涙が滲む。前に立ってくれるクラピカの背中が頼もしくて、力強くて。ほっと、少しだけ肩の力が抜けた。
「いいチャンスだろ。次はどんな試験かわからねえ。この女が敵に回る可能性だってあるんだ。このタイミングで脱落させておけば不安要素はなくなる」
「不確定要素の自己保身のために彼女を犠牲にする理由がわからないな」
「…わ、わたし……残りま、」
「ナマエ」
視線だけ振り返ったクラピカが私の言葉を切った。トンパさんの言う通りだ。私がみんなの敵になってしまったら、傷つける立場になってしまったら。
「二人に会う為にライセンスがいるのだろう」
「……でも、」
言葉を詰まらせ、震えながら視線を下げる。はくはくと動く口は言葉を出せず、ぐっと唇を強く結ぶ。
「ねぇ」
不穏な空間にゴンの声が響く。そして、続いた言葉に、するりと握りしめた手がほどけた。
■□
「ケツいてー」
「短く簡単な道がスベリ台になってると思わなかった」
「いたた…」
「ナマエ、大丈夫か?」
もう当分スベリ台を体験したくない。痛むお尻をさすっていると、屈んで心配してくれてたクラピカと目が合う。ありがとう、と笑えば安心したように笑みを浮かべた。
残り時間は45分。
「間に合ったね」
結果、私たちは全員ここまで来ることが出来た。
ゴンが長く困難な道から入り、制限時間以内に壁を壊して短く簡単な道に出る。その方法を提案してくれたおかげで、私達は全員でゴールまで行くことができた。武器で壁を壊そうとした時、私はみーちゃんの力で壁を壊した。人を傷つけるのではなく、役に立つ力の使い方をできたことにほっと息を吐く。みーちゃんのおかげですぐに壁は壊せたけれど、武器を使って壊していればギリギリだったかもしれない。
ゴンの機転には舌を巻くばかりだ。
第3次試験通過人数は26名。内、1名はゴールした時に亡くなってしまったらしい。
扉が開き、ゴールの部屋から出れば試験管の人と思わしき人が立っていた。次は4次試験と最終試験の2つだけ。試験はあと2つだ、と体に力が入る。そして、次の試験会場はゼビル島と呼ばれる遠くに見える島らしい。
そして、運ばれてきた四角の箱。クジを引くようにという指示に一同が疑問を抱く。答えるように告げられた言葉に首を傾げた。
「このクジで決定するのは、狩るものと狩られるもの」
中に入っているのは25枚のナンバーカード。それは、受験生の番号。脱出した順にクジを引くようにという指示に従い、ドクドクと心臓が早く鼓動する。自分の順番になり、クジを引けばその数字に言葉を失い、息を呑んだ。そして、誰にも見られないように隠すように外套の中に手を隠す。
嫌な予感がする。激しく音を立てて壊れそうなほど早くなっていく心臓。そして、次に告げられた試験官の言葉に、崖から落とされたかのように背筋が凍る。
引いた番号がターゲット。獲物のナンバープレートを奪え。自分のターゲットのナンバープレートは3点、自分自身のナンバープレートも3点。ソレ以外は1点。島での滞在期間中に6点分集めること。
私の引いた番号は、404番。…クラピカの、番号だった。
冷や汗が背筋を伝う。周りの音が消えて、取り残されるかのよう。クラピカの方を見れない。カタカタと小刻みに震え始めた手を握る力も入らない。
髪のことを知られても、態度を変えなかったみんな。私を案じてくれた、クラピカ。
出会えてよかったと、一瞬でも神に感謝したのが馬鹿みたいだ。
2019/08/12