私が落ち着いた頃、会長との面談の順番が来た。

ドクドクとうるさい心臓を落ち着かせて面談場所に向かうと(迷子にならないよう途中までクラピカが送ってくれた)、和室にいる会長の態度に肩の力が抜けた。
久しぶりに、和室をみた。掛け軸に、座布団に、畳ににおい。懐かしい。元の世界と同じものだ。促されるままに座ると、ネテロ会長は口を開いた。


「まぁ楽にしなされ。まず、なぜハンターになりたいのかな?」
「えと…身分証明がほしくて」
「なるほど。ではおぬし以外の9人の中で、一番注目してるのは?」
「注目…ですか」

一番注目していると言われて思い浮かんだのは、ゴンの姿。いくつもの困難をゴンの発想で切り抜け、進めて来た。ここまで来られたのも、ゴンのおかげだ。

「ゴン…405番です」
「ふむ…では最後の質問じゃ。9人の中で今一番戦いたくないのは?」
「…それは、一人だけ選ばないといけないですか?」
「好きに選んでもらって構わんぞ」
「それなら、405番、404番、403番、99番の四人とは戦いたくありません。大切な…人達だから」
「なるほど…もうよいぞ」

面談の内容はなんともあっさりとしている。なんだかよくわからないおじいさんだ。懐かしい和室から出ようと腰をあげると、思い出したように会長は「ああそうだ」と声をあげた。


「イズナビは元気かね?」
「!師匠をご存知なのですか?」
「わしがあの村にイズナビを送ったのだからね。どうするかはあやつに任せたが……なるほど、綺麗な髪をしておる。大切にせい」


ということは、会長は、村でのことや私の髪のことを知っているということ?
思わず凝視するも、会長は書き物をしていて何も反応はなさそうだった。もう用は終わりとばかりに打ち切られ、胸に蔓延った不安から逃げるように部屋を後にした。もっと詳しく聞きたかったけれど、素直に教えてくれるような人だと思えない。ふぅ、と小さくため息をついて肩の力を抜いた。




■□






「いい意味で405番。悪い意味で44番。理由があれば誰とでも戦うし、なければ誰とも争いたくはない。…だが、強いて言うならば406番とは戦いたくないな」






□■





全員の面談が終わり、しばらくして発表されたのはトーナメントだった。負けたものが上に進んでいき、頂点にいったものが失格。殺したら失格。参ったと言わせれば勝ち。簡単なようで、きっと難しいルール。

慌てて自分の番号を見れば、二番目。ゴンとハンゾーさんの次、ということは私はゴンと戦う可能性があるということになる。あの面談、どこに意味があったんだろう。
ううん、でもハンゾーさんが来るかもしれないし。…怖いなぁ。


「!…クラピカ、ヒソカと戦うの…?」
「そのようだな」
「…気をつけて。怪我、しないでね…お願い」
「…努力はするよ」


表情の変わらないクラピカは、あまり動揺していないみたいだった。私がクラピカの立場なら、怖くて怖くて、隅に膝を抱えているのに。

一番最初に始まったゴンとハンゾーさんの戦いは、吐き気がするほど心臓に悪かった。何度見えないように、何度止めようと念を使おうとして堪えたかわからない。どんどん傷つけられていくゴンを見ていられなくて、レオリオと共に前に乗り出した。

でも、私達が手を出したらゴンが失格になってしまう。
震えて泣きそうで、怒りで涙が滲んだ。すぐに泣くのをなんとかしたいのに、と手のひらに爪を食い込ませる。一番辛いのは、ゴンなんだから。私が辛くなるなんて御門違いだ。

「…血が出るぞ」
「………」

そっとクラピカに手を開かされた。複雑な想いでクラピカを見上げると、クラピカも耐えているようで。
4次試験で優しかったハンゾーさんの姿が、薄れていく。なんで?忍って、忍者ってこんなに冷酷だった?

「腕を折る」
「…っ!」

会場に響き渡った、骨の折れる音。大きくて、聞いただけで痛みが走るかのような感覚。声も出ず耐えるゴンの姿に、もう私が耐えられなかった。
怒りとくやしさで、誰の顔も見れない。咄嗟に繊維より細くした髪をハンゾーさんに向かわせようとした瞬間、スーツとサングラスを着用した男の人が目の前に立ちはだかった。

「言ったはずですよ。手を出せば失格になるのはゴン選手です」
「…手は、使っていません」
「会長はあなたのソレをご存知です。介入したと判断いたします」

それだけいって去っていったスーツの男の人。
レオリオは抑えきれないと言ったように、顔に筋が立たせている。私だって、耐えられない。この怒りの矛先をハンゾーさんに向かわせるしかできずにいると、片手で腕立て伏せをするハンゾーさんはゴンに蹴り飛ばされていた。

そして、脚を切り落とすと仕込み刀を構えるハンゾーさんに、それは困る!と声をあげたゴン。思わずぽかんとしてしまい、会場の空気が変わったのがわかった。
会場の空気、ペースはゴンのものになっていた。


ゴンは、やっぱりすごいなぁ。
ゴンの素質は、類を見ないものだ。

それに比べて、とつい自分の手を見てしまう。
試験中、いかに他の人より体力も筋力もないことがわかった。度胸もない、泣き虫。でも化け物じみた力は持っている。
ハンゾーさんが負けを宣告し、ゴンは救護室に運ばれた。…ハンゾーさんに気絶させられて。
ということは、私と戦うのはハンゾーさんということになる。ドクドクと高鳴る心臓は、不安と恐怖よりも、ゴンの姿を思い起こす。ゴンの腕は、無事なのだろうか。


不安で仕方なかったクラピカとヒソカの戦いは、しばらく戦った後急にヒソカが降参したことにより終わった。直前何かを呟いていたけれど、何を言っていたかなんてわからない。
少し気になったのは、降参したヒソカと目があったこと。私を見ていたようだった。
そして、次の試合は私と、ハンゾーさんの対戦だった。


「ナマエ、無茶はすんなよ。できたらゴンの仇打ってくれ!」
「…怪我をしないようにな」
「…うん」

三人に見送られ、試合場所に立つと、複雑そうにこちらを見るハンゾーさんがいた。やりにくい、といった感情を隠すことなく眉を寄せ私を見つめる。そして、気まずそうに頬をかいた。

「あー、お前か。…ったく連続で女子供とやりあうのか」
「…よろしくお願いします」

にこりと、笑みを作る。始め!という言葉が終わった瞬間、出していた杖をそのままに私は繊維より細く、絶で見えなくさせた髪でハンゾーさんを縛り上げた。

「なっ…!チッあの力か!」

そのまま杖を振り上げるふりをして、笑顔のままハンゾーさんを壁に叩きつける。あまり痛くはしないようにしたけれど、遠心力のおかげで痛かったらしい。
念のわからない人たちからすれば、私は杖で魔法を使っているように見えるはずだ。念能力者であるヒソカや他の人達もいたけれど、ゴンのことで頭に血が登っている私はそこまで考える余裕がない。


地面に落ちることもできず、空中で私の髪によってぶら下がるハンゾーさんにゆっくりと靴音を鳴らしながら近づく。そして、自分を落ち着かせるためにも笑顔で言葉を落とした。


「…ゴンと同じ痛みを味わうか、全身の骨を折るか、降参するか…どれにしますか?」

思っていたより相当怒っていたらしい。
想像以上に少し低く出た声を気にすることなく、笑顔のままハンゾーさんを宙吊りにする。

「女って怒るとこえーな…」

レオリオの言葉が観客席から聞こえた。
その言葉に反応する余裕もなく、どうしますか?と私は笑顔のまま質問を続ける。ハンゾーさんは私をじっと見た後、深くため息をついた。

「はー…そーだったな、ゴンもお前の大切な奴だったな……ここまでやらなくてもいいじゃねえかよ!対戦で…」
「え?ごめんなさい、よく聞こえませんでした」
「いてててて!!おいっ!そっちに腕は曲がらねえ!やめっ!!まいった!!まいったから降ろしてくれ!!」

…こんなにすぐ降参するとは思わなかった。
拍子抜けしてぼけっとしていると、審判に降ろすよう言われて慌ててハンゾーさんを開放する。真っ青なハンゾーさんが必死に呼吸をして地に足が着く素晴らしさに涙をこらえていた。


「…これでも、4次試験の恩で軽くしたんですよ?」
「どこがだよ!」
「始まった瞬間に全部の骨折ったりとか…してないでしょう?」
「お、お前顔に似合わずえげつないな…くのいちか?」
「ふふ、嘘です。ゴンの恨みです。ごめんなさい、痛かったですよね」

少しやり過ぎたことを謝り手を差し出すと、複雑そうに握られる。少し顔が赤いのは、必死に暴れたからだろうか。
私が引っ張る必要もなかったんじゃないかと思うくらいすんなり立ち上がったハンゾーさんは、じっと私を見下ろす。そして、何故かまだ握ったままの私の手も凝視している。

「…お前食ってんのか?」
「はぁ…?」
「ま、最初から譲ってやろうとは思ってたからな!忍ではあるが、女をボロボロにして勝ち取ったライセンスなんて胸糞悪いからな!」
「子供はボロボロにしたのに?」
「……お前案外根に持つタイプだな」

あんなことしたけれど、なんだかんだでやはりハンゾーさんは良い人なのだろう。私をパスする予定だったことの真偽はともかく、もう一度話してみると、話しやすさに笑顔がこぼれた。
審判の人が、ゴンの骨折は綺麗に治るとも言っていた。下手に折ることだって出来ただろう。
声も大きいし、駆け引きは苦手そうだし。

「ハンゾーさんって忍者向いてないですよね」
「は、はぁっ!?」








ハンゾーさんと話しながら戻り、クラピカとレオリオの元へ駆け寄る。何故かドン引きしているレオリオに首を傾げ、クラピカに目線を移すと少し眉間に皺が寄っている。二人から見てもやりすぎたのだろうか。
どう言葉を出すべきかわからず言葉を詰まらせていると、静かにクラピカの口が開いた。

「…ナマエ、4次試験でプレートを譲ってもらったというのは…」
「ハンゾーさん。たまたま飛んできたプレートが、ハンゾーさんの標的のやつだったみたいで。持ってたプレート全部くれたの」
「あ、それ多分俺が投げたやつ」
「キルアが?」

どこからあんな距離まで飛ばしたんだろう。キルアはすごいね、と微笑むとキルアはこれくらい寝ながらでもできる、と本当にやってしまいそうなことを言った。キルアなら逆立ちをしながらとかでもできそう。
クラピカも、私もライセンス獲得が確定した。後はキルアと、レオリオがどこかで勝てば、みんなで合格できる。
きっと二人なら大丈夫だと、信じて疑わなかった。








一瞬のことだった。レオリオとボドロさんの試合開始の合図と同時に、キルアはボドロさんを殺した。
血しぶきを浴びたキルアの目は、酷く冷たかった。


2019/08/27