ギタラクルの正体、そして急変したキルア。急な展開に私はキルアを止めることもできず、ギタラクル…キルアのお兄さんにどうこう言うこともできず試験は終わった。
…キルアが、失格という形で。
ゴンと友達になりたい。人殺しなんてしたくない。普通に遊びたい。そんなキルアの心の叫びが、私の胸に深く刺さった。私も、普通に暮らしたい。元の世界に戻りたい。…化け物と罵られない、普通の生活がしたい。
それごと否定するかのようにお兄さんは無理だと無表情で告げる。人を殺せるか殺せないかの判断しかできない、そういうように育ったのだと。根っからの人殺しだと冷たい言葉を彼は続ける。
その言葉にレオリオは怒り、もう既にキルアとゴンは友達だと叫んだ。その言葉に、ギタラクルさんは無表情のまま困ったと言い、ゴンを殺そうと言い放った。戦闘中だというのにゴンを殺しに離れようとした彼を止めようと審判が近寄ると、変わった形の針が審判に刺さり、ぐにゃぐにゃと顔の形が変わっていく。そして、洗脳されたかのように審判はゴンのいる部屋を言葉にしてしまった。
ギタラクルさんを止めるべく立ちふさがった。クラピカも、レオリオも、私も、ハンゾーさんも。
「ここで彼らを殺しちゃったらオレが落ちて自動的にキルが合格しちゃうね。…ん?キミ…」
ぴたりと、彼の視線が私に向いた。もちろん彼とは初対面で、ぞわりと言い知れない恐怖が襲う。じっと私を見る無機質な瞳に、血の気が引いていく気がした。
「キミ、どこかで…まぁいいか。それより君たちを殺さなくてもゴンを殺ってもキルが合格しちゃうな…」
何故、私を見ていたんだろう。
そんな疑問もすぐ、合格してからゴンを殺すと思いついた彼に思考をとらわれることはなかった。ギタラクルさんとの戦闘に、キルアは降参した。
真っ青で、冷や汗をかいていて、洗脳させられているかのようなキルアはその後何を話しても反応がなかった。
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ゴンが回復して、腕に包帯を巻いたまま現れた。そして、話を聞いたらしいゴンがイルミさんの元へ行くと、キルアに謝れと言った。何に謝るのかわからないといったギタラクルさんに、兄貴の資格はないと言葉を続ける。兄弟に資格がいるのか、とゴンを見もせず言葉を返したイルミさんの片腕を掴んだゴンは、そのまま片腕でギタラクルさんを持ち上げるように浮かばせ、足をつかせる。
「友達になるのにだって資格はいらない!」
そしてゴンは、もう謝る必要はない、キルアの所へ案内しろと言った。連れ戻すのだと。自分の意思で出ていったのではなく、操られたものだから誘拐されたも同然だ、と。
「ちょうどそのことで議論していたところじゃ ゴン。クラピカとレオリオ、ナマエの3名から異議が唱えられてな、キルアの不合格は不当との申し立てを審議中なのじゃよ」
そう、今はキルアの処遇について審議中だった。
会長に私とクラピカとレオリオが異議を訴えたけれど、全て憶測に過ぎないと突き返される。それどころか、それを言ったらクラピカとヒソカの戦いも密約が交わされていたのではないかと異議が出て、議論の雲行きが怪しくなっていった。
合否は変えられない。
そう結論が出て説明会が始まったけれど、話半分で私はキルアのことが心配で仕方がなかった。
今まで望んでいない人殺しをキルアにさせていたのなら許さないと言ったゴンの言葉が頭に残る。人の命を奪うことの重さ。望まずに奪ってしまった命。私は試験でまた一人、人を殺してしまった。
キルアがどういった人生を歩んできたかわからないけれど、暗殺業をしてきたのだから殺してきた数は私より桁違いなことはわかる。けれど、仕事で殺す人たちと自分の保身で人を殺した私。ごちゃごちゃと考えてしまって濁っていく心から目をそらすように手のひらに爪を立てた。
説明会が終わり、ギタラクルさんから聞いたキルアの居場所はククルーマウンテンという所だった。
「よぉ」
「!ハンゾーさん」
「オレは国に戻る。長いようで短い間だったが楽しかったぜ。もしオレの国に来ることがあったら言ってくれ。観光の穴場スポットに案内するぜ」
渡されたのは名刺だった。雲隠流上忍…と書かれているけれど、こんなに主張していいのだろうか。
「ハンゾーさん、って字こう書くんですね」
「!お前、読めるのか」
「あ、えっと…」
しまった。つい、懐かしい日本語を見て言葉が漏れてしまった。
クラピカがこちらを見ているのがわかる。どう誤魔化すか考えがまとまらぬ内に、ハンゾーさんは身を屈めた。
「それからお前、これから気をつけたほうがいいぜ。それ…今噂の神の髪≠フ力だろ?とんでもない組織から、どこかの国まで血眼になってお前を探してる」
「えと…神の髪=c?」
「ああ。…あー、まぁ、お前なら連絡してくれりゃいつでも助けにきてやるよ。何なら匿ってもやるから、いつでも連絡よこしな」
「あ、ありがとうございます…」
「じゃあな!」
ぽかんとしていると、先ほどのことを謝りにポックルさんが話しかけてきて会話は一時中断された。調べたいことはあるかと問われ、すぐ様特にないと返したクラピカ。緋の目は、いいのだろうか。信用問題だろうか。
本当はハンゾーさんの言っていた神の髪≠ェどう知れ渡っているのか知りたかったけれど、クラピカに習って口を閉じる。
その後、私と同じくホームコードを知らなかったゴンと共に説明をしてもらった。なんだかよくわからないけれど、前の世界でいう電話番号と同じものだろう。
そして、めくるというのはググるみたいなもの。ホームコード、ケータイ電話、電脳コード。新しい言葉にはてなを浮かべていると、ハンターカードでもめくれるというまたよくわからない会話が続いた。
…うーん、とりあえずハンターカードはすごいってことでいいのかな。
「キミも、ホームコードができたら連絡くれよ」
「は、はい」
ポックルさんと別れ、サトツさんとの用が終わったらしいゴンと共に私達はククルーマウンテンを調べに向かった。
電脳と言葉通り、脳の映像が映り少し肩が揺れる。慣れた手つきでめくるクラピカの横から画面を覗くと、ククルーマウンテンについての記述がびっしりと書かれていた。
「パドキア?知らねーな…どこの国だ?」
ククルーマウンテンがあるのはパドキア共和国という国らしい。詳しく調べる為に開かれた全国地図には、日本みたいな形の国があった。けれど、そこは私の知る日本じゃない。前の世界と似た地図なのに、私は帰れない。
こんな文字も、存在しなかったもの。
「飛行船で3日といったところだな。出発はいつにする?」
ゴンとレオリオは二人して今日のうちと声を揃え、少し笑みがこぼれた。素早くチケットを予約したクラピカの早さにも関心していると、ゴンもまた調べたい自分の父親のことも問う。
すぐに検索をするが、大きな音ではてなマークが画面に浮かぶ。電脳ネットワークの極秘会員に登録しているらしく、それに個人が加入するには莫大な金と権力がいるらしい。
ゴンのお父さんって、何者なんだろう。
「…そうだ、先程ハンゾーが言っていた神の髪≠ノついても調べてみるか」
「!う、うん」
「…あった、神の髪=c有名になったのは数年前だな。情報求む……最低報酬、一億!?」
「いちおく…」
「一国の軍事力にも勝り、世界で一番美しい髪…まさに神の力。一躍有名になった原因は…この映像か」
…こんなに有名だったとは思わなかった。一億って、少しでも私の情報があればその情報提供者に一億?
開かれた映像はぼやけていて、顔の判別がされていないことにほっと胸を下ろした。が、数秒もの短い動画に映る場所に、背筋が凍る。思わず一歩後退するけれど、映像から目が離せない。
木の形、よく知る森の風景。一瞬映された、ボロボロの小さな社。…私がずっと閉じ込められていた場所だった。
走って逃げる私を追いかけるように映像も走り出す。私の後ろから追ってくる大柄の男の姿に、脳裏からこびりついて離れない、あの首だけの顔が重なった。音声は雨の音だけで、画質は悪い。
嫌だ。この先を、見たくない。
水たまりのある場所で、力尽きた私が地面に転んだ。どうにかして逃げようと無様にもがき、土を削る私にあの男が武器を持って近づいてくる。私を、殺そうと。
「ーーっ」
髪が変化し、私を殺そうとした男の首が落ちた。そして、次にやってきたハンターの男も、殺した。そこで映像は途切れている。
こんな、映像、いつ流れ出したんだろう。
これを、いろんな人が見た。私が化け物だって…いろんな人に、知られている。心臓が壊れそうなくらい、おかしくなりそうな鼓動を刻んでいる。夢ではない。心臓が痛いくらいうるさいから。
「…まだ少し記述があるが…」
「わ、たし…」
「ナマエ、やめとけ。見てて気分のいいもんじゃねーだろ」
レオリオに肩を抱かれ、画面から無理矢理遠ざけられる。フラッシュバックしたトラウマに顔色が悪くなっていく。ぐるぐると回りだした視界は定まらず、カタカタと震え始めた体は言うことを聞かない。そんな私を安心させるように、レオリオは私の背中を撫でてくれた。
「私が確認しよう。…一部の新聞記事にも書かれているな。しかもここまで有名になっているのは…ここ最近だ。」
「髪、隠した方がいいな…背格好と髪の色バレてるしな」
「……ごめんなさい、迷惑かけて」
「なんで?迷惑なんて全く思ったことないよ?」
ゴンに頭に羽織る布を直され、俯く顔を上げると彼はにっこりと微笑んでいた。その後ろでクラピカもレオリオも笑っていて、涙がにじむ。
そして、きっと笑ってくれるだろうキルアがいないことに、心が曇った。
2019/09/02