飛行船の乗船時間まで時間があったので、私の変装について会議?が行われた。髪の色や長さ、背格好が映像に映され、世に出回っている。画質は悪かったけれど、ひと目見て映像の人間とは違う見た目にしたほうがいい、とレオリオやクラピカが自分のことのように口論を始めている。


また、外套も目立つから避けた方がいいという意見に私も同意するしかなかった。町中で外套に身を包んだ人間はいない。余計に注目を浴びてしまう。


「やっぱウィッグ被った方がいいんじゃねえか?」
「だが、何かの拍子にウィッグが取れてしまった時はどうする」
「あ〜……髪染めるか…?」


私をじっと見下ろして続く論議に口を挟めずにいた。髪の色を変えるという意見に、そっと髪の束を掴む。ここには誰もいないし私達だけだ。念の為小さな声でみーちゃんに話しかけた。


「みーちゃん、髪の色って変えられる?」


そう聞けば、ぴょこりと頷く形で髪の束が動いた。どうやら髪の色を変えることはできるらしい。変形ができるのだから髪の色を変えることくらい造作もないのだろうか。一先ず考えてくれている二人に伝えると、髪の色をどうするかという議論が始まる。


「今の髪色とは逆っつーと…金髪か?」
「綺麗な髪色とされる色は今狙われているらしい。噂から連想され、ナマエの髪色以外にも特に金髪の女性も狙われているようだからそれは避けた方がいい」
「はぁ?そんなことになってんのかよ」


…私のせいで、無関係な女性も狙われているのか。
新たに知ってしまった事柄に胸がもやもやと曇っていく。だからといって私が何かをすることはできない。自分の顔を公開でもすれば狙われなくなるのだろうけれど、そんなことができるわけがない。それに、きっと”神の髪”ではないとわかったら命は助かるのではないだろうか。…そう、思いたい。


「赤とか青とか、灰色とかにすっか?」
「あまり派手だと目立つのではないか…?」


レオリオとクラピカの議論に結論がでず、ナマエ自身のことだからと私の意見も求められる。今の髪色、日本人のデフォルトカラーは狙われるとのことだけれど、この髪色の人はたくさんいるのでは?…でも、今日までに出会った人はいろんな髪色をしていた気がする。この世界では暗い髪色は珍しいのだろうか。


どの髪色に変えるか。クラピカのような綺麗な金髪も狙われているらしい。派手すぎないけれど今と違う色がなかなか思いつかない。そしてふと、ミアさんの髪色を思い出す。


彼女の髪色は、綺麗なピンクグレージュだった。太陽に当たるとキラキラ輝いて、柔らかくて優しい色。一度試してみよう、とみーちゃんに声をかけた。


「みーちゃん、ミアさんと同じ髪色にできる…?」


すると、毛先に光の粒子が集まり、キラキラと輝き始める。するすると光が伸び、その光を目で追う間もなく髪の色がミアさんと同じピンクグレージュの色に変わっていた。ぽかん、としているとレオリオが感嘆する。


「すげえな……でもいいじゃねえか!似合ってるぜ」
「すごく似合ってるよ!」
「あ、ありがとう…」


レオリオとゴンが褒めてくれたけれど、本当に似合っているのだろうか。アジア系の人間が派手な色だとか金髪だとかにしたら似合う人と似合わない人がいるし、と慌てて手鏡で確認するけれど普段の髪色と違う自分に違和感を抱くばかりだ。鏡に映る髪色は、ミアさんと全く同じ。なんだか本当にミアさんの娘になったような気分だ。
ふと、じっとこちらを見つめるクラピカに視線を上げると、目が合う。そして、少しだけ口角を上げて言葉を続けた。


「似合っているよ」


心臓が大きく音を立てた。頬が熱い。慌てて視線をそらしてお礼を言えば、くすくすとクラピカが笑った。なんでこんなにドキドキしてしまうのだろう。自分の胸元を握りしめ、原因がわからず首を傾げる。クラピカは本当に綺麗だから、だからドキドキしてしまうのかな。そう結論付け、時計を見るとまだ時間があるようだった。


外套の処分と、試験でボロボロになってしまった服を着替える時間はありそうだ。恐る恐る服を買いたいことを伝えると、3人は快く了承してくれた。









会場近くにあった服屋にはいろんな服があって、すぐ決めることができずにいた。髪色を変えたとはいえやっぱり何も被らないのは落ち着かないから帽子かなにかを被っても違和感のないファッションにしたい。長らく山にいたし、村ではミアさんのおさがりのカントリーな服を着ていたから流行がわからない。社で着ていたような大人しい服は映像に映ってしまったし、どうしようかと店内をぐるぐると回っていたら店員さんに話しかけられてしまった。


「鬼まょまょテンサゲっぽぃヶド〜おけまる?」
「え…?」


今なんて言ったんだろう。思わずぽかんと店員さんを見つめ返すと、明るい笑顔を貰った。金髪に焼けた肌、派手な服装の店員さんは名札を首から下げているけれどその名札もデコられすぎてよく名前が見れない。
おしゃれに敏感な人なんだなぁ。探すのを手伝ってくれるという声かけはありがたい。お願いしますと頭を下げれば、また何を言っているかわからない単語で言葉が続けられる。ニュアンス的には、どういう服系統がいいか、ということだと思う。


「えと…帽子被っても変じゃないファッションがいいです」
「おけまる水産〜〜ちょぃまち〜」


水産…?
少し離れた棚や帽子のコーナーからひょいひょいと服を持ってきた店員さんは私のところまで戻ると、服を広げて見せてくれた。


「ユニセックス的な?そのエモヘアーならきゃわたんぃくよりぃ〜〜黒パーカーのが映えるし鬼かゎぃいし、ぁりょりのぁり」
「なるほど…」
「ぁんまボーイッシュはテンサゲなんでぇ〜ボトムスはこれでトップスはこれヵナ〜」


渡されたものを戸惑いながら受け取ると、背中を押されて試着室に押し込められてしまった。閉まったカーテンをぽかんと見つめ、渡された服を見る。ぶかぶかでオーバーサイズの真っ黒なパーカーの背中にはどこかの言葉とうさぎの絵柄がプリントされている。ボトムスといって渡された台形スカートはリボンやフリルがあってかわいい。真っ黒のキャップを被って、鏡を見れば、ボーイッシュだけれどかわいくまとまっている。膝上のスカートを履くのは慣れなくて居心地が悪いけれど、こういうファッションの人だと町中で目立つことはなさそうだ。


「これ全部お願いします」
「ぁざ〜。これサービスイカ丸〜」
「えっと…?」


全部着ていく旨を伝え値札を切ってもらうと、着ていた服と一緒になにかの服も一緒に袋に入れられる。慌てて聞くもサービスと返される。ワンピースらしい。


「あの、お金…」
「ん〜〜とりまこれくらい!ワンピはサンプルりんごだからフリスクね〜」
「え、でも…」
「いーっていーって。ワケありでもオシャレ楽しみなょ」


い、い、いい人…!
何度もお礼を言って頭を下げたら笑われてしまった。試験でボロボロになった外套に動きやすい服で店に入ったから、同情されたのかもしれない。値段も何故か割引をしてもらえて、師匠から渡されていたお小遣いでも充分買うことが出来た。
なにかお礼をしたいけれど、あいにく果物も尽きてしまっているし人に渡せるものがない。それなのに店員さんは明るく笑って、自分が勝手にやったことだからと言ってくれた。
…次この近くに来ることがあったら、絶対に来よう。






□■






時間になり、飛行船に乗り込んだ。民間の飛行船は初めてでテンションが上がってしまい、窓から外を覗く。飛行機じゃない、ヘリウムガスで浮いているのだろうか。


「…そういえばナマエは、記憶喪失なのだったな。全く思い出したりしないのか?先程、ハンゾーの名刺に書いてあった字を理解していたようだが…」
「あ、えっと…」
「そーいやそうだったな。それだけのモン持ってりゃ、記憶喪失になっても…」
「…だがその髪が有名になったのはここ数年だ。ナマエの記憶があるのもここ数年…謎が深まるな」


いえない、別世界から来たなんて。
苦笑いで誤魔化すも、そういえば何故私の髪にこんな力が宿っているかなんて考えたことがなかった。


目が覚めたら、知らない場所にいて、この力を持っていた。
行き倒れていた私を拾ってくれたジャックさんとミアさんは、言葉も話せない私にとても優しく、家族のように接してくれた。
何故私はこの世界にいるのか。

この髪の力は、みーちゃんは何故あるのだろう。




2019/09/11