「ただ待つのは退屈で長く感じるもの。ゲームでもして時間を潰しませんか?」

案内された執事室に入れば、一同全員に頭を下げられ、非礼を詫びられる。なんでもキルアのお母さんからの連絡があり、正式な客人として扱うように言われたらしい。そしてキルアがこちらに向かっているようで、その間暇つぶしにと眼鏡をかけた執事の人が提案を持ちかける。どこからか出されたコインが投げられ、素早い動作で手に握られる。

「コインはどちらの手に?」
「左手」
「…左手?」

どうしよう、ぼうっとしていて見えなかった。みんなの指差す方に同調すれば、開かれた手に収まったコインにほっとする。次はもっと早くいきますよと言われ、慌てて意識を集中させる。

たくさん手があるかのような残像が残るほどの素早い動き。常人には出せない動きだ。じっと見つめていてもわからない。コインにみーちゃんを見えないようにつけてしまえばわかるけれど、と考えたところで眼鏡の執事の人は静かに話し始めた。

キルアのことを生まれた時から知っていて、親に似た感情を抱いている。そんなキルアを奪おうとしている、私達が憎いのだと額に青筋を立てた。

「さぁ…どっちだ?答えろ」
「左手だ」

先程までにこやかだった執事さんの雰囲気が変わった。嫌悪感、抑えてはいるだろうけれど明確な殺意。クラピカの言ったとおり左手にはコインがあったけれど、握り潰されて歪んでしまっている。それは、彼の心を表しているかのようだった。

キルアが来るまでに自分のやり方で私達を判断し、結論を出す。私達に拒否権はない。一度間違えれば、見習いの彼女は殺される。いわば人質だ。そして、キルアが来るまでに全員アウトになったら…

「キルア様には”4人は先に行った”と伝える。2度と会えないところにな…」

その言葉に、ぴくりとみーちゃんが反応した気がした。咄嗟に制すように自分の髪を服と一緒に握りしめる。

「キルアは」
「黙れ。てめェらはギリギリのところで生かされてるんだ。オレの問いにだけバカみてぇに答えてろ」

有無を言わさずにゲームが開始される。今までの比ではないほどの速さで、手がたくさんあるようにしか見えずコインの姿を視界に捉えることができない。
速すぎてわからず、答えを詰まらす私達に3秒以内に答えろと急かされる。そして見習いさんの首を切れと言ったことにぎょっとして慌ててレオリオが口を開く。

レオリオは左手、ゴンとクラピカは右手。じゃあ私は平等になるようにレオリオと同じ左手と答える。そして、コインがあったのはーー右手。

「まず、二人アウトだ」

まずい。いつまで行われるかわからないし、全員見えていない。数を減らされ、最後に残った時、どうなるか。見習いさんや私達が殺される前に、みーちゃんに助けてもらう?ううん、この人達はキルアやキルアのお母さんたちが大事で、こういう行動に出ている。殺さず、怪我をさせずに眠らせたりできるのだろうか。

そうこう考えているうちに、残ったのはゴン一人になってしまった。間髪入れずに始まる前に、ゴンが制止をかける。そしてレオリオにナイフを借りると、腫れていた左目の皮膚を切り裂いたのだ。思わず息を呑み、呼吸が止まる。血を抜いてよく見えるようになったゴンは、よく見えるようになったとコイントスに挑む。

キリキリと、お腹が痛い。あの素早い動きをゴンは見抜き、当ててみせた。そして今度は、三人がかりで行われるコイントスに冷や汗が滲む。

「後ろのこっちの人でしょ?」

「すばらしい!!」

全然、見えなかった。三人がかりでコイントスがされていたと思ったら、ゴンの後ろにいた人がコインを握っていた。魔法でも見ているかのような心地だ。呆然としていると、執事の人たちが盛大に拍手をしたところで、チャイムの音が鳴る。どうやらキルアが来たらしい。

貼り付けた笑顔で悪フザケが過ぎたことを謝罪し、時間を忘れて楽しんでいただけたでしょう?と目を弧にする執事さん。迫真の演技だったとレオリオは言うけれど、あれが演技だとは思えない。おそらく、本心だろう。

「ゴン!!あとえーとクラピカ!!ナマエ!!リオレオ!!」
「ついでか?」
「レオリオ!!」

久しぶりに会えたキルアは元気そうで、少しほっとする。やっと、やっと会えた。

「久しぶり!!よく来たなどーしたひでー顔だぜ」
「キルアこそ!」
「つーかナマエイメチェンした?いいじゃん似合ってるぜ」
「あ、ありがとう…」

なんだかキルア、テンション高いなぁ。早く行こうと急かされ、キルアに腕を取られる。ぐいぐいと引っ張られて、ぽんぽんと出されるキルアの言葉に笑みがこぼれる。けれど。ちら、と視線だけ後ろに目を向け、頭を下げたままの、ゴトーと呼ばれた執事さんに目を向ける。彼はきっと、本当にキルアが心配で大好きだ。それでも、私が彼に何かをすることはできない。





□■






ゴンが最後にゴトーさんに見せられたコイントスの話を聞いたクラピカが実演し、手に取ったはずの手とは反対の方にコインが握られている。コインを予め二枚持っていて、さりげなく片方のコインを袖の中に落とすという方法らしい。

魔法みたい、とこぼすとクラピカは少し笑った。

かくかくしかじかで試験での借りを返すためにヒソカに会いたいゴン。そして、クラピカはヒソカの居場所を知っていると言う。最終試験の時に耳打ちされた内容は、クモについて。何故知っているのかはわからないけれど、クモというのは旅団のシンボルマーク。講習後に問いただせば、9月1日ヨークシンシティで待っているとだけ言われたらしい。

そしてその日から、世界最大のオークションが開催される。そこに、旅団が来るのかもしれない。

「じゃ、私はここで失礼する」
「え?」

キルアと再会ができて区切りがつき、オークション参加にはお金がいる。ハンターとして雇い主を探すクラピカに、心が落ち着かない。

そうだ、私達はずっと一緒にいるわけではない。レオリオは故郷に戻って医大の受験勉強をするらしい。みんなと、当分会えなくなるのか。別れを惜しんでいるのは私だけなのかもしれないと思うほど、離れたくないと心が叫んでいた。つ、と無意識にクラピカに目線を向ける。

「ナマエは?」
「え?」
「オレ達と一緒に来る?」

ゴンの言葉にはっと意識が戻る。自分のことを考えていなかった。試験が終わったら、まずは戻ってくるように師匠に言われている。

「ううん、師匠の家に戻るよ」
「一緒に住んでるの?」
「うん。…ライセンスを取れたから、ミアさんとジャックさんに会わせてもらえるの」

別れは寂しいけれど、ハンターライセンスをとって身分証明証ができた。これで、ミアさんとジャックさんに会える。嬉しくて頬が緩んで、へにゃりと笑う。会ったらなんの話をしよう。髪の色、褒めてくれるかな。たくさん聞いてほしい話があるんだ。

「…ナマエ、気をつけろ」
「?」
「あの映像は、故意に撮影されたものだ。ナマエの髪のことを世界に認知させ価値を高め、利用しようとしている。」

真剣なクラピカの真っ直ぐな瞳に自分が映る。あの動画は、誰かが撮影されたもの?確かに、言われてみれば防犯カメラの映像などではなくて、撮影者が私たちを後ろから追いかけるような視点だった。

「情報提供者は、”人形師”と呼ばれている情報屋だ。そいつについての情報は全くない」

再度、気をつけろと言葉が落ちる。
故意に撮影された映像、人形師と呼ばれる情報屋。故意に撮影されたということは、あの状況は故意に作られたのだろうか。誰が、何の為に?私の髪を世界に認知させて、何をしようとしているのだろう。わからないことばかりだけれど、これも調べなくてはいけない。ミアさんとジャックさんにが狙われてはいけないから。

「うん。…ありがとう」
「すぐに駆けつけられるかはわからないが…端末を持ったらいつでも連絡してくれ」
「あ、オレもやるよ」

端末の番号が書かれた紙をもらい、嬉しくてまた頬が緩んだ。端末買えたら、真っ先に連絡しなきゃ。大事なものをしまう場所に連絡先をしまい、顔を上げる。みんなと、お別れだ。


「9月1日ヨークシンシティで!!」








■□







「じゃあ、ナマエは?」

クラピカとレオリオ、ナマエが飛行船に乗ったのを見送り、二人になったゴンとキルア。ゴンは、キルアが地面に書いた図を見つめながら疑問を言葉に落とす。少しの間があって、キルアは表情を変えた。

地面に書かれているのは、ハンゾーやヒソカの似顔絵。強さの度合いを示したもので、ゴンはここくらいだとずいぶん遠い場所に線が引かれていた。

「…あいつ自身は強くないよ、一般人レベル。もしくはソレ以下」

けど、とキルアは図を見つめて眉間に皺を寄せる。そして、ぐるりとハンゾーとヒソカのあたりに大きく円を描いた。

「あの髪の力は未知数すぎてわかんねぇ。でも、ナマエを守ることが行動の指針になってる」

だから、守る為なら簡単に人を殺す。プログラムされた機械のようなものでもなく、意思を持ってそれが実行されているのだ。

「あいつビビるだろうから言わなかったけど、一度ウチにあいつの殺害依頼が来たんだって」
「えっ!?」
「報酬額が危険性の割に少なすぎるし、親父がいろいろ考えて断ったらしーけど」

ぱん、とキルアは手についた土を払う。ひとつため息をこぼしたキルアは、言葉を探しているようだった。

「アレは、ナマエの命が狙われたから殺してる。狙ってきてる連中が雑魚ばっかだったから単調な攻撃だけだけど、意思があるってことは学習能力がある。もっと強いやつと戦えば、一瞬でそれ以上に強くなる。」

敵が強くなれば強くなるほど、その力に合わせて一瞬で強くなる。神の力だと評されるのはあながち間違いではないかもしれない。つまりヒソカと彼女が戦えば、あの髪はヒソカのレベルに合わせて強くなるというのだ。

「ま、ナマエが良い奴じゃなかったら今頃ウチの家の誰かに殺されてたかもな」
「…報酬額が見合わなくても?」

ゴンの純粋な疑問の声に、すぅとキルアの目が細くなる。

「ナマエがやべえやつだったら、今頃国の1つや2つ潰されてるぜ」

ナマエが争いを好まない、心優しい人間だから襲ってくる人間だけが殺された。だが、それがナマエではなくヒソカのような人殺しや戦闘に快楽を覚えるような人間だったら?

背筋を冷たい手で撫でられているかのような悪寒が走る。キルアはけろりと表情を変え、頭の後ろで腕を組んだ。

「ま、あの力持ってんのがナマエでよかったな」





2019/10/10