あれから、私を殺そうと多くの人がやってきた。
「殺すのは、絶対ダメだよ」
みーちゃんに何度も言い聞かせた。もうあれから殺すような事態にはなっていないけれど、相手が死んでいないだけ。助けて、と言ったからだと気づくのは少し経ってからだった。私に危害を加えようと乗り込む怖い人達に、みーちゃんは攻撃をしていった。実際は、攻撃だなんてかわいい言葉で済むものではなかったけれど。
あれから眠れない日々が続いた。雨が降れば、あの日を何度も思い出した。脳裏に焼き付いて離れない。ばけものと動いた男の口が、ずっと離れない。
私は必死に人を殺さないよう、みーちゃんに言い聞かせた。殺さなければいいのかと腕を切り落としたこともあった。大量出血で死んでしまう。ショック死することだってある。遠くに飛ばしても、追い払っても私を殺そうと何度も社にやってくる人もいた。
そして口々に言うのだ。私を殺せば賞金が出ることを。そしてそれを依頼したのは、村の人間だということを。
ここにやって来た人達のせいで、たくさん動物が死んだ。殺した人を、同じ目に遭わせたかった。そんなことをしたら本当に化け物になってしまうと押し留まった。それと一緒にフラッシュバックするのは、男の死体に動く口元。とっくにお前は化け物だと言われている気がして、強く目を瞑って耳を塞いだ。
「…?どうしたの…」
動物達が慌てたように逃げている。私も逃げるように服を咥えられるけれど、促されるまま動くには理解が足りなかった。日課となった、亡くなってしまった動物達の墓に手を合わせている最中だった。お花を毎日添えて、枯れてしまった花は一緒に地面に埋めて。ぐいぐいと強く引っ張るシカを宥めると、どこかを指差すような仕草で村の方向を示した。
嫌な予感がした。切り拓かれてしまった木々の隙間から、シカの視線を追う。すると、飛び込んできたのは空に伸びた真っ黒な煙。ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。心臓の音に支配されたように手が震えた。草木をかき分けて走ると、燃える村が瞳に映った。
「…うそ」
村が、燃えている。ここからでは遠くてよく見えないけれど、どんな状態にあるかはすぐにわかった。数軒燃えているのではない。村中の家が燃えていた。すぐに連想したミアさんとジャックさんの顔に、気づけば私は走り出していた。
すぐに息が切れていく。山道を走るのは慣れなくて、ほどなくして私はどこかにひっかかって転んでしまった。心配するように私を撫でるみーちゃんは、私を起き上がらせる。膝と掌に走る痛みで、少しだけ冷静になれた。私が駆けつけて、助けられるのかな?大量の水を運ぶなんてできない。それに、あそこまで燃え上がったら水だけじゃ消火できないってどこかで聞いたことがある。変形する、自在に動くこの力をどう使えば火事を止められる?
ぐるぐると頭を必死に回すけれど答えが出ない。とにかく行かないより行って後悔するほうがいい。ぐっと前を見据えると、土を踏みしめる音が聞こえた。
「…お前がナマエか?」
久しぶりに名前を呼ばれた気がする。
無精髭の生えた男の人だった。武器は持っていない。殺意のない目で見られたのは久しぶりだった。突然のことに言葉が出せずにいると、男の人は私の元まで歩み寄った。
「む、村…村が!火で…」
「落ち着け、俺はイズナビ。…ジャックとミアという人物から、お前の保護を依頼された」
「お父さんと、お母さんから…?」
よく見ると、男の人の服は少し焦げていた。彼の言う言葉をゆっくりと飲み込む。二人が私を保護するように依頼をした?この、男の人に。
改めて男の人を見遣るが、少しくたびれたジャケットに無造作な髪、無精髭にいまいち信頼ができない。メガネにスーツの人が来てもいまいち信用できないけれど。
「説明は後だ。この場から離れるぞ。一度お前が来た方向に戻ることに…」
「村が、燃えてるんです!お父さんとお母さんが…助けないと!」
「…二人は無事だ。とにかく、ここを離れる。直にここも火が回る」
「で、でも…」
その時、村のある方角から爆発音が聞こえた。村の人は生きているのだろうか。二人は、無事だと男の人は言うけれど。差し出された手に戸惑いながら手を載せる。ぐっと強く引き上げられ、担ぐように抱き上げられた。
私の来た方向に走り出し、逆戻りとなってしまった。走りながら答えてくれた男の人、イズナビさんは少しだけ現状を教えてくれた。ジャックさんとミアさんの依頼で、ハンター協会というところから派遣されたイズナビさんが来たらしい。直に村へ消火隊が来るらしい。とにかく詳しい話は後だと山道を私を抱えたまま走る彼は真剣な顔をしていた。
私は気球のような小さな飛行船に詰め込まれ、窓から小さくなっていく村を見つめた。燃え上がる炎は消えておらず、黒煙が空まで届いていた。
2018/03/28