一週間が経ち、ようやく外出禁止令が解除された。本当はまだ禁止にしたいらしいけれど、どうも蘭ちゃんや梓さんが私に会いたがっているらしい。嬉しい。これ以上音信不通でいると不信がられる為、零さん的には仕方なくの対応だ。零さんと一緒に家を出る時、ドアを開ける手が震えてしまった。零さんが代わりにドアを開けてくれて、肩を抱いてくれたから恐怖は和らいだ。
「なまえさん!!」
「わ、わわ」
安室さんと一緒にポアロのドアをくぐれば、待ち構えていたかのような蘭ちゃんに抱きしめられた。零さん以外の人に抱きしめられたのは久しぶりで、慌てていると何故か梓さんまで一緒に抱きついた。なんでこんなご褒美みたいなことになっているのかな?
「やっとなまえさんに会えた…」
「なまえさん、一週間も来ないから相当参ってるんじゃないかって心配だったのよ!もう大丈夫なの?ほら座って!なまえさんの為にとっておきの紅茶とケーキ用意してるから!」
…こんなに心配されていたとは思わなかった。
思考が追いつかないまま梓さんと蘭ちゃんに促され、奥の方のテーブル席へ案内される。安室さんは勤務の準備に入る為に事務所へと向かった。あ、零さん以外から貰った飲食物口にできない。でもこの場合、貰うって分類に入るのかな。
真正面に座った蘭ちゃんの隣にはコナンくんがいて、まさかコナンくんがいるとは思わなくてびっくりしてしまった。お友達と遊ばなくていいのかな、と思いつついつもどおり挨拶をすると何故か煮え切らない返事をされる。
「おはよう、コナンくん」
「なまえさん…もう大丈夫なの?」
「なにが?」
「安室さんからなまえさん参っちゃってて外出ができないって聞いたから、コナンくん心配しているんです」
確かに参っていたけれど、外出できないのは零さんのせいだ。曖昧に笑えば、いつの間に用意を終えたらしい安室さんが注文を取りに来ていた。梓さんがとっておきの紅茶を用意してくれているらしいことも伝え、あとはケーキを注文するだけだ。コナンくんは何が食べたい?と聞けば、もの言いたげにじっと見つめられる。
「もしかして全部食べたい?みんなでわけっこする?」
「ううん、そうじゃなくて…」
「?」
私はパンケーキにしたいけど、コナンくんは何がいいのかな。どちらかで迷っているなら私が片方頼むよと言えば、わずかに眉を下げられた。
「どうしてボクを庇ったの?あの場で身代わりになって、下手に逆上させたらあの場でなまえさん殺されていたかもしれなかったんだよ」
「そ、そうなの?」
「そうだよ!」
どうやらこの疑問に答えないと注文までいきつかないらしい。しかもすぐ隣にはメモを構えた安室さんがいて下手なことが言えない。そしてまた近くには梓さんがいて、なんだか取り調べを受けているみたいだ。
「コナンくんを助けなきゃって…無事蘭ちゃんのところに帰さなきゃって思って、つい」
「なまえさん…」
「コナンくん、あの日のことはもう怖くない?大丈夫?」
これだけ、ずっと心配だった。零さんから聞く話では元気に毎日学校にも行っているし変わりないようだけれど、自分の目で見ないと安心できない。
事件のことを夢に見たりしていないかな、トラウマになっていたりしないかな。できるだけ優しい声色で問いかければ、大丈夫だよと元気に返事をしてくれた。よかった。少しは守れたかな。
「パンケーキおいしそうだなぁー」
「今試作を繰り返しているんですけど、アレンジを加えたものをお出ししてもよろしいですか?」
「もちろん!」
「じゃあ私もパンケーキにします!コナンくんは?」
「じゃあボクも」
メレンゲを入れたふわふわパンケーキの試作らしい。零さんの作る料理は試作でも何でもおいしいから楽しみ。少々お待ちくださいと微笑まれにこにこと笑みを返す。
今日は久しぶりの外出だけれど、零さんの目の届く範囲以外に行ってはいけない。私は鞄からモバイルバッテリーとスマホを取り出し机の上に置いた。
「そういえばなまえさん、鞄も靴も新しいやつ?」
「えっ?うん」
「わあ、なまえさんの今日履いてる靴かわいいですね!あれ…もしかしてこのブランドのやつですか?」
蘭ちゃんが待ち時間に読んでいたらしい雑誌を見せられる。一般的なデザインというより、一点物を作り上げているかのようなデザイン。ヒールの装飾や形にも拘っているものが多く、展示用として鳥かごのようなヒールデザインのものもあった。言われてみれば似ているような。
「わかんない…」
「なまえさんが買ったんじゃないの?」
「ええと…服とか靴とか、全部彼氏が買ってきてくれるの」
なんかこの言い方だと貢がれてる悪女みたいだ。慌てて言葉を探すけれど、これ以上に表す言葉が見当たらない。鞄も財布もポーチも零さんが買ってきてくれたものだ。もちろん私が欲しいとこぼして買ってくれたものもある。値段は調べてはいけないのが私の中での暗黙ルールだ。
「なんか…なまえさん、急に連絡取れなくなったりしそう。本当にその彼氏さん、大丈夫なんですか?」
「なまえさん、ちょっとぽやっとしてるし気をつけた方がいいよ?」
「そ、そうかなぁ…」
「わかるわ。なんかなまえさん危なっかしいのよね」
コナンくん、梓さんにまで心配されてしまった。大丈夫だよと言っても信用されず、コナンくんにはじとーっとした目で見られてしまう。小学生にまで信用されてない!
私、3人の前でそんな危なっかしいことしたっけ。ポアロでは普通にお話しているだけで、家でよくやる壁にぶつかったりつまづいたりこぼしたりはしていない。ちょっとぼーっとしていたら半身を壁にぶつけたりとかするよね、ね?
「お待たせしました」
「!わあ」
すっごくいい香りがする!目の前に置かれたティーカップはいつものポアロのカップとは違っていた。少し高そうだ。温かいカップにティーポットから紅茶が注がれると、ふわりとベルガモットの香りが鼻腔をくすぐる。優しく包むようで上品な柑橘系の香り。どこのメーカーのものだろう。
「それにすぐなまえさん、餌付けされるし」
「えっ?」
「パンケーキができるまで、お好きにつまんでくださいね」
「わーいやったあ!」
真ん中に置かれたお皿にはいくつかのマドレーヌとクッキーが飾られていた。嬉しくてへらへらとしていたら何故かコナンくんにため息をつかれてしまった。
2018/06/15