相変わらず安室さんは仕事を放棄して、私の隣に腰掛けている。お客さんは反対に座るコナンくんだけだ。
「で、いつになったら婚姻届にサインしてくださるんですか?」
コナンくんがアイスコーヒーを吹き出した。
あれから顔を合わせる度に言われる。おそらくこのネタを安室さんは気に入ったんだろう。私はへらりと笑い、またしてもサービスで頂いたシフォンケーキにフォークを刺した。
「そのネタ好きですね?」
「冗談に見えます?」
そう言われ思わず安室さんの顔を見上げれば、推理をするかのような真剣な瞳で私を見ていた。まさかそんな表情をしているとは思わず、ぽとりと口に入れようとしていたケーキを落とす。幸いなことに、ケーキはお皿の上に落ちた。
「見えないですね怖い…安室さんなら相手なんて引く手数多でしょう?」
「なまえさんがいいんですよ」
「わあ〜〜少女漫画みたい!」
「壁ドンでもしましょうか?」
「え〜警察呼びま…ひゃっ」
ぎっと大きな音を立てて急に椅子が引き寄せられた。人が乗っている椅子を簡単に引き寄せた安室さんの筋力がやばい。いやそれよりも、だ。引き寄せられてしまったことにより、ぐっと安室さんの顔が近くなってしまった。少し伸ばせば、口づけでもできそうなくらいに。
「ね、いいでしょう?」
「よくはないですね?コナンくん助けて!?」
「えっぼ、ボク!?」
するりと腰に腕が回され、混乱した私は咄嗟に横に座っているコナン君に助けを求めてしまった。大体子供の前なのに、勤務中なのに!
顔に安室さんの手が添えられる。ゆでだこのように顔に熱が集まっていく。こんな至近距離で安室さんの顔をみたことはなかった。近くでみる端正な顔立ちは私の心臓を圧迫していく。するりと撫でるように撫でられ、固まる私ににこりといつもの笑顔を作った。
「クリーム、ついていましたよ」
そのままぱくりと自分で食べてしまった安室さんを凝視する。きっと彼はおなかがすいていたんだ、うん。それにしてもジョークのレパートリーが増えたなぁ。
「安室さん、勤務中じゃないの?」
「ああ、つい。おいしそうだったので」
「お腹空いているんですか?ケーキ、食べます?」
「ふふ」
するりと腕が離れる。では一口、と言われた為切り分けると、ぐっと顔が近づいた。口を開ける彼はどうやら食べさせるのをご所望らしい。こんなの、ファンの人に見られたら刺されるな。
特に何も考えずに口に入れてあげると、安室さんは満足そうにしていた。むしろなんだか嬉しそうだ。そんなにお腹が空いていたんだろうか。それなら一口と言わず全部食べてくれていいのに。
「こういうの、彼女さんにしてもらえばいいじゃないですか」
「なまえさんが彼女になってくださいよ」
「ファンに刺されそうなので遠慮します」
「二人ってさあ…どういう…付き合ってないの?」
なんだか呆れたような目でコナンくんがこちらを見ている。まずい、小学生に呆れられてしまった。慌てて弁解しようと言葉を並べた。
「ジョーク友達だよ」
「結婚を前提にお付き合いしています」
あれれ〜?おっかしいぞ〜?
思わずコナンくんがよく言うセリフを使ってしまった。カウンターに戻っていた安室さんを凝視すると、にこにこと笑顔を向けられた。
「ね」
「違いますよね?」
「はは…(安室さん、目が本気だ…)」
ね、と同意を求められたけれど違うでしょう。コナンくんと目が合うと、かわいそうなものを見る目で見られた。安室さんのせいだ。
2018/04/10