※松田、荻原のキャラ捏造注意




待ちに待った今日は、警察学校に通うひろにいにやっと会える日だ。とびっきりおめかしをしてお母さんとお父さんにに微笑ましそうに見送られ、高鳴る鼓動を押さえつつ警察学校へと向かった。本当はひろにいが迎えに来てくれるはずだったのだけれど、少し警察学校に興味があった。それから、お兄ちゃんを迎えに行くというものがしてみたくてわがままを言ってみた。

早くお兄ちゃんに会いたくて小走りでいけば、門のところに大好きなお兄ちゃんの姿が見えた。嬉しくてそのままひろにい、と呼びそうになった声を止めたのは一緒にいるひろにいのお友達っぽい人達だ。

ぴたりと足を止め、じっとその人達を見つめる。ひろにいはその人達と楽しそうに話していて、人見知りな私は足が縫い留められたかのように動かない。どうしよう、さっきとは別の意味で心臓がバクバクと鼓動している。

「あ、なまえ!」
「おっあの子が?」
「あ、あう…」

大好きなひろにいに手招きされては行かない選択肢がない。おそるおそる近づけば身長の高い彼らに囲まれる。慌ててひろにいの後ろに隠れた。

「かわいー小動物みたいじゃん」
「怯えられてるぞ」
「俺怖くないよなまえちゃん」
「おい、俺の妹を名前呼びするな」
「出たシスコン」

ぎゅうとお兄ちゃんの服を掴めば、大好きな笑顔を向けられた。ほっとしてゆるゆると笑みが溢れる。久しぶりにひろにいに会えた。今日はどこに行こうかなぁ、ひろにいも疲れてるだろうしのんびり出来るところがいいかなぁ。

「かわい…俺もこんな妹欲しい…」
「普通このぐらいの歳の子って兄離れしない?」
「やらないからな」

ほーらおいで、と腕を広げられ、人目があるから少し恥ずかしいけれど抱きつけば、強く抱き返される。大好きなお兄ちゃんの香りに、胸元に顔を埋めながらニヤついた。毎日こうして会えればいいのに。

「そうだ、自己紹介しようななまえ」
「うん。…諸伏なまえです。兄がいつもお世話になっています」
「俺は松田陣平、よろしくな。こっちは荻原」
「よろしく、なまえちゃん」

一度ひろにいから離れて頭を下げれば、片手を差し出されたので答えようとすれば横から伸びた手がそれを落とした。見れば犯人はお兄ちゃんで、抱き寄せられお兄ちゃんにぼふりと収まってしまった。

「なまえに触るな」
「いや握手しようとしただけじゃん!」
「だめだ。やらん」
「うわこれなまえちゃん彼氏できないやつ」
「なまえの彼氏は俺だ」
「ひろブラコンすぎ…うぇっ!?零いつからいたんだよ」

なんだか楽しそうだ。松田さんと荻原さんと話すお兄ちゃんは、私と話す時では見せない顔をしている。同級生の友人には、こんな顔をして話すんだなぁ。もっとお兄ちゃんが好きになった。来てよかった。

ぽやっとしていると気づけば降谷さんがいて、思わず見上げれば目が合ってしまった。相変わらず二次元から出てきたようなキレイな顔立ちをしている。お兄ちゃんも負けないくらいイケメンだけどね。

「…って、なんで零も私服なんだ?出かけるのってヒロだけだろ?」
「なまえが他の男と一緒にいるのに、俺は野郎共と一緒にいろと?」
「というかまじで付き合ってんの?」
「お兄ちゃんは認めません」

なんだか今日はいつもよりひろにいとの距離が近い。たくさんくっついてくれる。嬉しくて後ろから抱きつくひろにいの腕に手を回せば、どこかで血管の切れるような音がした。気の所為かな。

目の前の荻原さんと松田さんの顔色が少し悪いような気がする。

「ヒロ、わざとだろ」
「いくら零でもなまえはやれない。それに今日は兄妹水入らずだから邪魔するなよ」
「俺だって久しぶりに恋人に会えたんだ」

「なまえちゃん、こういう時は…私の為に争わないでー!って言えばいいんだよ」
「え、えーっと…?」

そう言ってきた松田さんはいたずらっ子ぽくウインクをした。そう言われても、そんなヒロインセリフはかわいい女の子が言うからこそ価値があるものだ。じっと見られてなんだか恥ずかしくて俯くと、松田さんの頭に拳が落ちた。

「松田!俺の目の前で俺のッ世界で一番大好きな妹を口説くなんて喧嘩売ってるのかーッ!!」
「ちげえよ!!」
「ヒロ、妹ちゃんのことになるとキャラ変わりすぎだろ」

ひろにいの温もりが離れてしまった。逃げる松田さんを追いかけていったひろにいの後ろ姿をぽかんと見つめていれば、ぐっと身を屈めた降谷さんが私を覗き込んだ。
心の準備ができていなくてのけぞりそうになるのをぐっと我慢する。名前をそうっと呼べば、降谷さんは緩く口角を上げた。

「久しぶり。元気してたか?」
「は、はい」

暖かくて大きな手で頭を優しく撫でられ、なんだか何も言えなくなってしまった。直前、松田さんやひろにいと話していた時と全然違う。子供扱いでもされているのかな、とうまく見れずにいた降谷さんの顔を盗み見る。すると、飴細工を溶かしたような、たっぷりのはちみつを溶かしたような甘い瞳に目がそらせなくなる。そんな目で私を見ていたなんて、思わなかった。

こんな目、するんだ。

「今日会えると思って、楽しみにしていたんだ。ほら、なまえの好きなパンケーキ屋の特待券」
「こ、これ…開店前から行列ができる食べたら幸せになれると話題の…!」
「一緒に行こうな、今日」
「はい!」

見せられたチケットに思わず頷いた後、あれ?と時間が止まったような感覚になる。今日は、ひろにいと出かける予定のはずだ。でも降谷さんは今日と言った。
降谷さんを見ればにっこりと微笑んでいて、ヒロのもあるからと三枚のチケットを見せられた。

「降谷…お前…」
「なんだ」
「いや…というかなまえちゃん、純粋だなー…お菓子で…うん…」
「かわいいだろ。俺のだ」
「お前今まで付き合ってきた女とはぜんぜ、ぐえっ」

…今のは聞かなかったことにしたらいいのかな。
急に降谷さんは荻原さんにヘッドロックをし、言葉も途切れなんだか取っ組み合いを始めてしまった。男の人同士は取っ組み合いをするのが好きなのかな。

…ということはひろにいも取っ組み合いが好きなのかもしれない。どうしよう、私何も鍛えてないからお兄ちゃんの相手にならない。

「なまえおまたせ!ごめんな一人にして、」
「ひろにい…私、取っ組み合いできない…」
「んんっ!?出来なくていいんだけど何かあったのか?」
「お兄ちゃん、取っ組み合いが好きなんだよね…?」
「取っ組み合いより何億倍もなまえが好きだよ」
「!えへへ」


じゃあ強くなくていっか。
戻ってきたお兄ちゃんに抱きつこうとすると、急に影が現れた。伸ばした腕はそのまますっぽりと収まってしまい、ふわりとすっきりしたいい香りに包まれる。
離れる前に腕を回されてしまい、慌てて見上げれば楽しそうな表情の降谷さんが私を見下ろしていた。

「あ、あの、降谷さ、離し、」
「ん?」
「おまっ、ゼローーー!!」

もう何がなんだかわからなくなってきた。お兄ちゃんに抱きつこうとしたら降谷さんに抱きついていた。ガッチリホールドされてしまって抜け出せない。人目があることも相まってどんどん顔の熱が上がっていく。ひろにいとは違ういいにおいがする。男の人の、においだ。
そう意識してしまってはどんどん沸騰してしまって、周りの会話が頭に入らなくなっていった。

「あーもう!お前らに来ること言うんじゃなかった!一秒でも長く一緒にいたいのに!零っなまえから離れろっ!」
「これから一緒に出かけるんだからいいだろ」
「いやなまえとでかけるのは、」
「なまえ、一緒にパンケーキ食べに行くんだもんな?」
「ひゃい…」
「ほら」
「お前!!ケーキでなまえを釣ったな!?」

「お前ら行くなら早く行けよ」





2018/07/05