ズキンと頭が痛む。強い睡魔に襲われ、そのまま眠りに落ちようとしてふと思い出す。ミステリートレインは今日だ。慌ててスマホを探せばサイドテーブルにメモと一緒に置かれていた。メモを見れば綺麗な零さんの字で文章が書かれていて、寝ぼけ眼で必死に字を追う。

書いてあったのは、ミステリートレインに行かせられないこと、無理やり眠らせたことへの謝罪と蘭ちゃん達には既に行けないと連絡済みであること。あと、サイドテーブルに飲み物と保温容器にスープがあること。もちろんキッチンにも作り置きのものがあるから、お腹が空いたら食べていいといった食事のこと。

メモの通り水筒と保温容器がサイドテーブルには置かれていた。そしてスマホを開けば蘭ちゃんからメッセージが来ていて、何故かお大事にしてくださいと心配する文章が並べられている。もちろん蘭ちゃんに何かメッセージを送った記憶はない。前後の会話を見れば、私が寝ぼけて送ったのかと錯覚するくらい私の文面で今日は体調不良でいけない旨が書かれていた。犯人は言わずもがな零さんである。

「……はー…」

スマホを脇に置いてぼふりと枕に顔を埋めた。行きたかった。零さんのかば。

ふと身にまとう衣服に違和感を覚え、見てみれば零さんのシャツを着ているようだった。ぶかぶかで袖から手が出ない。おまけになんで私は紐ぱんつを履いているんだろう。こんな下着持ってなかったのに。でも着心地は新品だ。

「…んん?」

まだ眠気の残るぼんやりとした思考の中、ふと足首の違和感に首を傾げた。ジャラ、と金属音が聞こえる。また眠ろうとする頭と体を無理やり動かして布団をめくれば、足にはそれはもう立派な足枷がついていた。

おまわりさ〜〜〜〜ん!!っておまわりさんは零さんだった。

痛まないように配慮がしてあるのか、足枷には柔らかい布が巻かれている。枷自体は細く、けれど金属だから手で外れるわけがない。いよいよヤンデレルート王道なことをしてきた。ひろにい助けて。

まずこんな足枷つけなくても睡眠薬がよほど強いものだったのか、今日一日寝ていることになりそうだ。悔しいからメッセージアプリで零さんへ「零さんのかば」とだけ送った。そしてそのままずっと控えていた睡魔に襲われ、スマホを握ったまま私は意識を手放した。
















「…えっ!」

やっと起き上がれるようになったのは昼過ぎで、なんとなくテレビをつければちょうどやっていたニュース番組に思考が止まる。
なんとそのニュース番組でやっていたのは、ミステリートレインで爆発事故があったという内容だった。自分が乗るはずだった乗り物で事故が起きたことに頭が真っ白になる。幸い負傷者はいなかったと続いたアナウンサーの声にはっとする。そうだ、蘭ちゃんや園子ちゃんも乗っていたんだ。

慌ててメッセージアプリで蘭ちゃん達へメッセージを飛ばした。負傷者はいないとはいうけれど、気分を悪くしただとか小さな怪我をしただとかあるかもしれない。
少し待てば蘭ちゃんから返事があって、無事であることと私の体調を心配する言葉。後半はあながち嘘ではなくなったけれど後ろめたいものがある。とにかく蘭ちゃん達が無事でよかった。


零さんは、これを知っていたんだろうか。それとも、こういう危険があるから行かせたくなかったのかな。

零さんは本当に頭がいいから、何を考えているかわからない時だってたくさんある。けれど今回の、自分が乗るはずだったもので事故が起きていたのを見てしまうと…やっぱり、零さんの言うことはちゃんと聞かなくちゃいけないなぁと思う。
でも零さん、行っちゃ駄目だって普通に言ってくれればよかったのに。蘭ちゃん達との脱走計画でも聞いてしまったんだろうか。でもあの場に安室さんはいなかったし、そもそも私は零さんを出し抜けるとは思っていなかったし。

うーん、わかんないや。

返事をするかのようにじゃらりと足元の足枷に繋がる鎖が音を立てる。そういえばこの鎖は長く、ぱっと見たところ部屋の行き来は自由にできる長さだった。零さんが帰ってきたら外してもらえるのかな。でも以前、次なにかしたら足枷つけるとか言っていたようないなかったような…

考えても仕方ない。ニュース番組でミステリートレインの特集が終わると、私は棚からDVDを取り出した。今日は何を見ようかなぁ。



2018/07/13
修正公開2020/09/28