最近の零さんはスキンシップが多い気がする。スキンシップという言葉で終わらせていいものなのか甚だ疑問ではあるけれど。
零さんは滅多に私の嫌がることはしない。監禁は置いておいて。けれど恥ずかしいからという理由で嫌がると絶対やめてくれない。零さんはドSだと思う。

「んっ…ふ、ぅ…」
「……ん、」
「〜〜〜っ」

ぐちゅぐちゅと大きな水音が響く。絡め取られた舌は絡め取られ、時折吸われる。じゅっと音が鼓膜に嫌という程響き離れない。身じろいでも仰け反っても、零さんの膝の上に座らされ、後頭部と腰に回った零さんの手が許さない。
息がうまくできない。本当に苦しくて離れようとしたタイミングで少し隙間を空けられ、酸素を取り込む。やっと息ができると思えばまた深く塞がれる、という地獄みたいな繰り返しから逃してもらえない。
飲み込めずに口の端から垂れた涎を掬われる。滲んだ涙はとっくの昔に流れ落ちていて、ふにゃふにゃになった体は抵抗する力を無くしていた。

「…だめか?」
「っは、…や、…です」

ゆっくり離れた零さんとの間に、つっと銀の糸が繋がる。ふるふると首を横に振れば、拗ねたように零さんがむすっとした顔になった。かわいい顔をしてもだめです。

睡眠薬を盛ってまで行かせたくないことをちゃんと言ってくれなかったこと、足枷までつけたこと。その腹いせで一週間そういったえっちなことは禁止令を出したのだ。まぁ零さんが一週間帰ってこない可能性もあるけど、と思っていたらミステリートレインの日から時間を作れば帰ってくる。
どこかに連絡を取ったり調べたり、と家でも忙しそうで、帰っている場合ではないことくらい私にもわかった。けれど、何度も我慢をさせてごめん、とどろどろに甘やかしながら謝るのだ。

夜の営みが駄目ならば、とでもいうのかまた唇を塞がれる。まだ息が整っていないどころか、呼吸の仕方を忘れたみたい。うまく息ができなくて頭が真っ白になる私に、ゆっくり酸素をくれる零さん。様子の違う私に気づいたのか、呼吸を促すように口を塞がれたり、隙間を作って酸素を取り込ませる。ぼろぼろ涙をこぼし、零さんの服を掴んで必死に呼吸を繰り返した。

「…は…俺がいないと、息ができないくらいに溺れてくれたらいいのに」

まともに働かない頭を必死に動かそうとするけれど、機能は停止したままだ。零さんのぼやいた言葉をうまく脳が認識をしない。途切れながら零さんの名前を呼べば、とろりと溶かした瞳で返事をされる。息ができなくて、自分から唇を合わせればゆっくりと後頭部に手が回された。















混乱した頭も落ち着いて、なんとか呼吸ができるようになった。ぐったりと零さんの胸元に凭れると、するりと髪を梳かれる。

もうたくさんキスをしたから満足なのかな、でもまたキスされたら困るなぁと零さんの胸元に顔を埋める。すると逞しい腕が私を包み、無理やり顔を上げさせられる気配はない。
やっと息が整ったところで、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。ソファの横に置かれた紙袋には、どうやら服が入っているようだった。

「それ…何が入っているんですか?」
「ああ…テニスウェアだよ。テニスのコーチを頼まれたんだ。確かなまえも知っているよな?鈴木園子さん」
「園子ちゃん!」

ばっと顔を上げると零さんはきょとんとした顔で私を見つめる。それからゆっくり笑みを浮かべると柔らかく私の頭を撫でた。
なんでも園子ちゃんの別荘でテニスをやるらしい。すごい、さすがお嬢様だ。せっかく招待したミステリートレインが事故を起こしたから、そのお詫びにという話らしい。

「なまえも招待されていたよ」
「えっ」
「もちろん、だめ」
「れっ零さんは行くのに私はだめなんですか!?」

そんなむごい!思わず零さんの服を掴めば、同時にじゃらりと鎖の音がした。零さんは片手で足枷をちらつかせ、にこにことしている。

足枷は零さんが帰ってきている時は外してもらえる。けれど、いない時は足枷をつけるようになってしまって自由にコンビニに行くことができない。柔らかくてかわいい布で巻かれているとはいえ、金属に一日中拘束されるのは気分が悪い。足枷のせいで着替えられないと言ったらかわいい紐ぱんつを贈られた。違うそうじゃない。セクシーな下着をちゃっかり贈るな。

「そもそもなまえは運動嫌いだろ」
「そうですけど…」
「炎天下の中外にいるのは、なまえの体によくない。あんまり体強くないんだから」
「うう」
「またどこかに連れて行ってやるから、な?」

まぁ確かにテニスをしろと言われてもできないのだけれど。引きこもりに運動と直射日光は天敵だ。零さんの言葉にぐうの音も出ない。

頬を膨らませて拗ねた態度を取れば、ゆったりと頬を撫でられる。

「いい子で待っていられるな?」
「…私子供じゃないです」
「ふふ」

別荘、行ってみたかったなぁ。でも、テニスをしないで日陰で待っているとか、別荘で待っているとかでもだめかな。疎外感で辛くなるかな。

「あの、別荘でおとなしく待っているので一緒に」
「だめ」
「なんでですか〜〜っ!」
「毛利さん達と一緒にいると事件が多いからかな」
「なんですかそれ…」

そんな死神みたいな体質の人がいるとでもいうのか。探偵は事件を引き起こす特殊能力があるんだろうか。よくわからない理由で却下されてしまったけれど、なんだかもう何を言っても許可が出ない気がする。だめ、とぴしゃりと笑顔で却下される。諦めて零さんの胸元にぼすんと頭を預ければ、あやすように頭を撫でられた。

「そんななまえに朗報だよ」
「…はい」
「足枷、俺が許可すれば離れていても外れるものにしたから」

朗報という言葉を辞書で引きたくなった。


2018/07/19
修正公開2020/09/28