「今日からここに住んでくれ。自分の家にはもう帰るな」
「わあ暴君」

一泊するものだと降谷さんについていけば、突然ジャイ…ンのような発言が落ちる。なぁ〜にを寝言言っているんでしょうねこのイケメン。イケメンだから許されるとでも思っているのかもしれない。

降谷さんはお兄ちゃんの幼馴染のような人で、気づいたらハイスペックな彼とはお付き合いをしている。世界七不思議とはこのことだとは思う。ちなみにお兄ちゃんは今でも反対している。お兄ちゃんが反対するなら別れようとしたら降谷さんが激怒する。

「荷物は後で運ばせる。極力この家から出るなよ、チャイムが鳴っても出るな。郵便物は俺が持ってくるから」
「これドッキリですか?」
「違う。どこかに行きたい時は必ず俺に相談しろ、いいな。俺の許可なしに出歩くなよ」
「知ってます?監禁っていうんですよ降谷さん」
「違う、保護だ」

降谷さんの家に足を踏み入れた時にカバンを持ってもらってしまった為、ここから逃げ出すのは困難だ。スマホもあのカバンの中に入っている。大体扉を塞ぐ位置に立つ降谷さんを抜けられるとは思えない。彼はとても真剣な顔で私を見ていた。ジョークかドッキリであってほしい。

「あの…私、仕事は…」
「辞めさせた」
「事後報告よくないですよ」

就活頑張ったのになんてことをしてくれたんだ。じとりと降谷さんを睨みつければ、彼は表情を変えることなく私の掌に何かを握らせた。硬くて無機質なソレを見れば、真っ黒な四角い薄いカード。刻まれた数字はカードの番号。ってこれブラックカード!?!

「ふ、降谷さ、」
「俺は毎日帰れないけどしっかり三食食べてるか確認するからな。これで好きな物買っていいから」
「これぶらっくかーど」
「いいな?」

よくはないですね?

恋人の家でお泊り会をしようとしたら監禁されました、なんてどこのフィクションだ。手に握らされたブラックカードが恐ろしい。初めて見たけれど、これが本物のブラックカードというやつかぁ。こわい。降谷さんも怖い。

「おうちかえる」
「駄目だ。返事は はいかイエスだ」
「暴君って言うんですよ」

何度か降谷さんの塞ぐドアから出ようと試みたけれど、見事に惨敗した。話しながらもしっかりと塞がれ、それどころか肩を掴まれ目を合わせるように少し屈んで話してくるのだ。嫌でも真剣な表情が視界に映り、言葉が消えていく。
未だ納得のいかない私は整った顔を近づけられても揺らぐことはない。甘い雰囲気というわけではなく、言い聞かせるようなものだ。もう子供じゃないのに、降谷さんはたまにこうして子供扱いをしてくる。二桁歳が離れているわけでもないのにな。

「わかった。言い方を変えよう」
「あの…変えてもかんき、」
「働かなくていいしずっと家で遊んでいていい。欲しいものはなんでも買っていい。お前は今から金持ちニートだ」
「やったーー!!」
「よし」

諸伏なまえ、今日から勝ち組ニートになりました!やったよお兄ちゃん!



2018/04/22