引きこもりがちな私は、案外この生活に慣れていた。降谷さんはあまりこの家に帰らない。警察官は本当に忙しいらしい。同じ警察官のお兄ちゃんも、降谷さんくらい忙しいのだろうか。最近お兄ちゃんとは連絡が取れず、何度電話をかけても繋がらない。家族が大好きなお兄ちゃんのことだから、携帯を変えたのなら必ず教えてくれるはず。

寝室は何故か降谷さんと一緒だ。不服である。私は大抵頂いた部屋にいて、ずっとパソコンを見たりテレビを見て自堕落な生活をしている。ニート最高。外に出たいとは今のところ全く思わない。むしろ何度も降谷さんに外は危ないという話を聞かされ、外に出るのが怖い。

降谷さんにブラックなカードを渡されたけれど、あまり使っていない。欲しいもの、と言っても服や鞄は外に出ないから今のところ必要性は感じない。動かないから、軽く運動できるものが欲しいけれど絶対に三日坊主になって隅に押し込む未来しか見えない。降谷さんに借りた本を読んでみたけれど気づいたら寝ていた。私本当にダメ人間だなぁ?

「うーん」

クイックルなワイパーでいつも通り家を掃除していた。強引とはいえ養ってもらっているのだから掃除くらいはしようと思って始めたのだ。まぁクイックル持ってうろうろしているだけなんだけれど。最初はお菓子を作ったりしたけれど食べきれず、一緒に食べてくれる人もいないからやめた。というか、降谷さんの作る料理の方が何億倍もおいしい。

降谷さんは突然帰ってくる。余裕のある時は連絡をくれるけれど、基本玄関から鍵を開ける音がして、突然帰ってくる。多分降谷さんはレアキャラだと思う。SSRまではいかないけどSRくらいの単発ガチャ。
私は日課となっている報告をするため、進めていたゲームのスクショ画像を送りつけた。今何をしているか、していたかを数時間ごとに報告しなくてはいけない。面倒くさい彼氏か。しかも聞いてくるくせに送ったものに全部返事が返ってくることはない。じゃあ送らなくていいかと放置したらすぐ電話がかかってきて怖かった。お昼寝をしてしまって忘れたときは着信履歴が二桁ほど降谷さんで埋められていた。怖すぎる。あれから眠い時は必ず連絡をするようにしている。


よし、今日はオムライスを作ろう。


テレビで映るふわふわなオムライスに目が奪われ、すぐにレシピを検索した。材料を確認し、調理に取り掛かる前に降谷さんにメッセージを送る。

”オムライスつくりま〜す!”

これで降谷さんに負けまくっている女子力を挽回する!
私用のエプロンはないから、とりあえず降谷さんが使っているエプロンをつける。大きかった。まぁいいか。













「卵が固い。具が生焼け、大きさがバラバラ」
「文句言うなら食べないでくださいよ」
「誰も食べないとは言ってないだろ」

降谷さんが突然帰ってきた。今回はタイミングがよかったね降谷さん。私のお手製料理が食べれるよ!味の保証はしないけれど、というやつだった。
降谷さんの4倍くらいの時間をかけて出来上がったオムライスはテレビで見たようなふわふわオムライスにはならなかった。今日と明日で消費しようと少し落ちこんでいたのに、文句を言いながらばくばくと降谷さんはオムライスを食べている。よほどお腹が空いていたのかもしれない。

「おかわり」
「おいしくないんじゃないんですか」
「お、か、わ、り」

こういうのを俺様っていうんですよ降谷さん。顔がいいから今まで許されてきたんじゃないのか。

でも、まさか降谷さんが帰ってくると思わなかった。もっとこっそり練習して、うまくなってから振舞おうと思っていたのに。タイミングが悪いなぁ、降谷さん。

「まずくはないよ」
「…そうですか」
「そのエプロン、俺のか?」
「は、はい…勝手に使っちゃだめでしたか?」
「いや。…いいと思う」

持ち主なのになんでそんなあいまいな答えなんだろう。



2018/04/23