「ひろにい、あーん」
「あーん」

ふにゃふにゃ笑顔を浮かべながらひろにいの口元にクッキーを持っていけば、ひろにいも嬉しそうにぱくりと食べて頬を緩めた。唯一作れるクッキーを久しぶりに作ったのだけれど、嬉しそうにひろにいがにこにこと食べてくれるのが幸せすぎてどうしよう。こんなに喜んでくれるなら毎日作ろうかなぁ。

「おいしいよ、なまえ」
「えへへ、まだあるよ」
「あー」
「はい、あーん」

もうひとつひろにいの口元へ運び、空気がふにゃりと緩んだ。もぐもぐ食べているひろにいがかわいい。クッキーをお皿に取り分け、トレーに乗せればひろにいが後ろからぎゅうと抱きついてきた。うりうりと頭に頬ずりをされ、くすくす笑ってしまう。めいっぱいその想いに答える為に回った腕を抱きしめれば、二人で笑いあった。

「そういえばなまえ、前髪切ったか?」
「うん、少し…ぱっつんすぎたかなぁ」
「もっとかわいくなったよ」
「!えへへー」

実はクッキーを焼いている間に前髪を切っていた。すぐ気づいてくれたこと、褒めてくれたことが嬉しくて振り返り、ひろにいに抱きついた。同じ柔軟剤を使っているのに優しくてあたたかくて、大好きなにおいがする。キッチンに充満する甘いクッキーの香りに紅茶の香りも合わさって、なんだかここが天国のような気がする。

「…おい……」
「そうだなまえ、この前テレビでやっていたチーズケーキの店があったから買ってきたよ」
「えっ」
「今日一緒に食べような」
「おい…」
「やった〜〜!」
「何イチャついてんだ!!」

地を這うような声にやっと気づき、声がした方を見れば恐ろしい形相の降谷さんがいた。怖い。お母さんが、お客さんが来ているからお菓子とお茶を用意してねと言われたから用意していたことを思い出す。お兄ちゃんとお話してるのが幸せすぎてすっかり忘れていた。

「どうしたんだよ零、顔怖いぞ」
「わざとやってるのかヒロ…」
「なにが〜?」

ぎゅう、とひろにいの腕の力が強まる。痛くはないのですり寄るようにひろにいの胸板に顔を埋めた。降谷さんが来ているということは、しばらくひろにいとお話できなくなる。寂しい。

でもそろそろお茶とお菓子を運んだほうがいいのでは?と思ったけれどひろにいは腕の力を緩める気配がない。そろそろ行かなくていいのかな、という疑問をこめてひろにいを見上げればにこりと微笑まれた。う〜〜ん、ひろにい大好き。

「は、な、れ、ろ!」
「嫌だ」
「あわわ」

肩に降谷さんだと思わしき手の感触がある。ぐいぐいと後ろに引っ張られるけれど、同時にひろにいはぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。何がどうなっているのか後ろが見えない私は混乱するばかりだ。ついにはべりっと効果音がつきそうな勢いで剥がされると、後ろから抱きしめられた。ふわりと香るのはひろにいのにおいではない。すこしすっきりとした、何故かドキドキしてしまうにおいだ。

「零!!」
「俺の恋人なんだけど?」
「それは一生認めない、返せ」

私を挟んで喧嘩が始まってしまった。不穏な空気にどうしたらいいのかわからず、二人を交互にみつめた。降谷さんは私の後ろにいるから見えなかったけれど、私に回された腕は鉄のように動かない。痛くはないのだけれど、鉄のなにかに拘束されているみたい。

「なまえおいで」
「!ひろに、ひえっ」
「だめ」

覆いかぶさるように降谷さんがさらに密着をして、耳元で低く囁かれた。びくっと震えると降谷さんはくすりと笑う。慌てて降谷さんから離れようと腕を引っ張るけれどびくともしない。沸騰していくように顔が熱い。耳元で喋らないでほしい。

「零!!」
「今日の勉強会なしでいいか?なまえといるから」
「逆に許可するとでも?」
「お前らいつもいちゃついてんだから、たまには恋人同士でいちゃつかせろ」
「俺は一生認めない!!」
「なまえ、クッキー俺にも食べさせてくれ」
「ひえ…」
「零!とにかくなまえから離れろ!!くそっ」

幸せだった空間には甘いクッキーと紅茶の香りが、変わらず充満していた。結局降谷さんは離れてくれなくて、ひろにいの所へ行こうとすればより密着度が高くなってしまった。
二人は勉強会をする予定だったらしいけれど、何故か私も加わることになり、降谷さんは私を膝にのせてひろにいは離れさせようと大奮闘をして……最後まで勉強が進むことはなかった。







2018/07/17
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お返事

この度はリクエストありがとうございました!ご希望に添えたお話になれたか不安ですが、兄妹のいちゃいちゃを書くのは楽しかったのでまた書きたいです…ありがとうございました!