「よし!」

たった今掃除機をかけ終えたフローリングを見渡し、腰に手をついた。窓のお掃除もしたし、トイレ掃除とお風呂掃除も終わった。あとは夕飯の準備なのだけれど、安室さんは毎日帰ってくるわけではないから連絡次第になる。

探偵のお仕事で、泊りがけで捜査をしなくてはいけない時が多々あるらしい。

それにしても、探偵のお仕事でだいぶ儲かっていたりするのかな。住むことになった安室さんの部屋は思っていたよりも綺麗で、質のよさそうなものが並んでいる。渡された通帳に書かれた数字に、初日は悲鳴をあげたものだった。食事代と雑費代とお給料だと言われたけれど、額が多い。必死に説得をして量を減らしてもらったけれど、その代わりとでも言うのか安室さんはお土産を買ってくることが多くなった。

さて、今日の夕飯どうしようかな。安室さんが帰ってこない日は残り物で済ませているのだけれど、帰ってくる日ならなにか新しく作らなくてはいけない。別に強制されてはいないけれど、雇われているのだから何か作らなくては。まぁ私が作るより安室さんが作ったもののほうが何億倍もおいしいのだけれど。

メッセージアプリを開き、安室さんに「今日は帰りますか?」とメッセージを送る。もし帰ってくるにしても冷蔵庫にはなにかあったっけ、と冷蔵庫を覗く。野菜が少し、調味料は切らしていないけれどお肉もお魚もない。というか、牛乳がないや。スーパーに買いに行こう、と外行きの服に着替えて軽く化粧をし、準備をしたところでまたスマホを確認したけれど返事は返ってきていない。忙しいんだろうな。

せっかく外に出るのだし、ポアロ近くのスーパーにでも行こうかな。そのついでにポアロに寄ったら、安室さんいるかもしれないし。雇用されてからポアロに足を運んでいなかったし、久しぶりに梓さんに会いたいな。

















スーパーが寒いことを忘れていた。なるべく冷蔵品コーナーには近寄らないようにしたいけれど、お肉や牛乳はひんやり冷やされたコーナーにしかない。
カタカタ震えながらカゴを持ち直し、スマホに入力したメモを確認する。帰ってきてもいいように、と一週間分の食材を買おう。と思ったけれどそんなに買って持って帰れるだろうか。まぁいいか、とキャベツをカゴにいれた。あ、重い。どうしよう。
キャベツ一玉は重かったのでレタスに変えた。安室さんがキャベツ食べたかったらどうしよう。

ある程度の野菜をカゴに入れた所で、既にカゴの中が重い。カートを持ってきたらよかった、と少し後悔するけれどそれより帰りはどうしよう。少し戻そうかな、とお肉のコーナーで吟味していると聞き覚えのある声がかかった。

「あれ?なまえさん!」
「…へっ?あ、梓さん!」

まだポアロに行っていないのに梓さんに会えた!嬉しくて駆け寄れば、梓さんも嬉しそうに花を咲かせながら駆け寄ってくれた。二人で手を握って笑い合うと、ふと後ろからやってきた姿に目が奪われた。

「あれ、なまえさん。どうしてここに…」
「安室さん!」

安室さんはカートを押して、少し驚いた顔をしていた。梓さんと手を繋ぎながら安室さんのところへ行けば、カゴの中には野菜やパン、牛乳が詰められている。ポアロの買い出しかなぁ。

「買い物してからポアロに寄ろうと思ったんです」
「なるほど…」
「あ、大丈夫ですよ?」
「この量を、家まで持って帰ろうとしていたのですか?」

安室さんにひょいとカゴをとられてしまった。これくらい持てるのだけれど、安室さんはにっこりと笑顔のままで返してくれる気配がない。この量、と言われても野菜を少し減らしたんだけどな。

「これで全部ですか?」
「?いえ、あとは牛乳と、お肉と…バターを買います」

安室さんはカートの下に私のカゴを置いた。梓さんはたくさん買いますねぇ、とカゴの中身を見つめている。今思ったけれど、ポアロに寄ってから買い物に行けばよかった。どうしよう、一度帰って冷蔵庫にいれてからポアロに行こうかな。でも離れているから往復するのはちょっと、面倒だなぁ。

「今日は五時までなので、一緒に帰りましょう」
「えっでも…まだ夕飯の用意何も…」
「一緒に作りましょうよ、ね?」
「はーい」

安室さんが一緒に作ってくれるのなら、今日の夕飯はすごくおいしいものになりそうだ。安室さんは基本料理が完璧にできる上に、アレンジまで加えてしまう。プロとしてお店が出せそうなくらい、安室さんが作るものはなんでもおいしい。

「なにか追加で買うものありますか?」
「そうですね…ではセロリを」
「わかりました」
「なんだか…二人、新婚さんみたいですね?」
「え?」

と、いうか!と梓さんは身を乗り出し、私と繋いでいた手をぱっと離すと勢いよく両肩を掴んだ。ぽかんと見つめると興奮しているのか梓さんは目を輝かせている。

「最近見かけないなって思っていたらいつの間に同棲していたんですか!?いつくっつくかなって店長と話していて、陰ながら応援していたのに!もっと早く教えてくださいよ!今日はお祝いですね!」
「えっえっ梓さんよくわかんないですけど落ち着いてください!私転職しただけですよ」
「へ?」

誤解している梓さんを落ち着かせる為にそっと梓さんの肩に手をそえる。熱を失ったように勢いのなくなった梓さんは、きょとんとしている。

「安室さんの家に住み込みで家事をするお仕事に転職したんです」
「住み込み…家事…?それって…」

考え込んでしまった梓さんは言葉を噤んでしまった。私から目線を外し、安室さんに目線を移している。安室さんはにこにことしたままで、梓さんは眉を寄せた。

「安室さん、あとでじっくり聞かせてもらいますからね」
「わかりました」

なんの話だろう。雇用形態の話かな。冷えてきた指先をすり合わせていると、安室さんは上着を脱ぎ、そっと私の肩にかけた。一枚布が増えるだけでこんなに暖かいなんて。ありがとうございます、とお礼を言えば少し眉を下げた安室さんに手を取られる。

「冷えてますね…ポアロに着いたら、温かいものお出ししますね」
「わあい」

ぎゅう、と両手で冷えた手を包まれた。安室さんの手あったかいなぁ。

「やっぱり付き合ってる…」
「え?」
「いえ!何も」

梓さんがすこし挙動不審な気がする。調子が悪かったりするのかな、と梓さんを見つめるといつもと変わらない笑顔を向けてくれた。何かを納得したのか、機嫌がよさそうだ。
カートを押す安室さんの隣に促され、少し前を歩く梓さんはくるりと振り返った。

「なまえさん、今幸せですか?」
「…はい!幸せですよ」

ね、と安室さんを見れば甘く目を細めた安室さんと目が合う。はい、と答えてくれた安室さんは花が咲いたような笑顔をくれた。




2018/07/22

以下お返事
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この度はリクエストして頂きありがとうございました!うそほんとの続きをとのことでしたが、あまり甘くないようなお話になってしまって申し訳ありません…
ただ、二人とも幸せいっぱいだよ!といった雰囲気が伝わっているといいな…と思います
夢主がどこまで気づいているのかはご想像におまかせします。

改めまして佐久間さま、ご感想にリクエストありがとうございました!
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