まずは薔薇を床一面に散らす。そのあとはアイシャドウパレットから拝借したラメを一粒一粒、こぼれないように慎重に壁につける。ラメは無機質な蛍光灯に照らされて、ダイヤモンド・ダストのようにきらきらと輝いていた。ラメを思いっきりつけたジュディの指もきらめいていた。アアいけない、お気に入りの真っ赤なルージュで鏡にラクガキしてやらなきゃ。
薔薇、ラメ、ルージュ、好きなものだけに囲まれた空間。普段怒鳴り声やタイピング音だけのオフィスも、今日はジュディの好きなものだらけ。床一面には書類ではなく薔薇を。壁にはグラフではなくラメを。鏡には泣きっ面ではなくルージュのラクガキを──たとえこの職場に誰もいなくても。誰もいない、というのは比喩ではない。ジュディが消した。生々しい跡はまだジュディの真っ黒でぺちゃんこなパンプスの裏にべっとりついている。断じてラズベリージャムではない。赤黒いなにか。山積みになった五十キロ近くある肉に鬱憤を込めながらインスタントコーヒーなんかぶちまけて──ジュディは元からコーヒー派ではない──お客様用のフォートナムメイソンの紅茶を入れる。繊細な花柄のティーカップからは香りと湯気が品良くゆらりと立ち上り、朝日は優雅なありさまとなったオフィスを照らしている。手当り次第砂糖を紅茶にぶち込む。一気に流し込む。窮屈なパンプスなんかそこらへんに脱ぎ捨てて、ぐったりと薔薇の床でねむる。
こうしてやっと、ジュディの素晴らしい一日は始まる。