なんと言っても女は美しかった。
 色白な頬にはうっすら赤が差し、長いまつ毛に縁どられた目は、カラーコンタクトになど頼らなくても澄んだ茶色をしている。
薔薇の花びらのような唇がただ、ふぅー、とゆったり息を吐くだけで、うっとりとしてしまう人がどれほどいることか。可憐という言葉そのもの。さながらオールド・ムービーの女優だ。

 しかしそうは言っても女には美しさしか無かった。生まれつきの王冠も強かさも無かった。
 だから女は奪うことにした。
 シャネルのリップスティックやディオールの香水と同じ。少しばかり金を握らせれば手に入ると思っていた。だが生まれつきの王者を倒すためには、首ごと切り落とさねばならなかった。まがい物で妥協する癖がある女は、なぜかこればかりは拒んだ。女はどうしても王冠が欲しかった。だから奪おうとした。結局、女のまがい物の首が落とされる結末になっただけだけれど。それでもあれは初めて女の心中に渦巻いた激情、興奮、言い換えれば原始的欲求──強者への憧れだったのだ。いわば一世一代の恋だった。

愚者の美学

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