study log

思いついたけど使い所がわからない文やフレーズをぽいぽい投げる場所です。更新履歴には載せていませんが随時更新中。
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晏如

 己はどこまでも己の無力さを呪った。呪って呪って、呪っただけであった。殻を破ることも繭から這い出でることも、しようとはしなかった。ただただ堅い殻に守られた、やわらかな繭の中で、大きくなっただけの体を赤子のように屈め、ぐずぐずになった実の残骸を啜っていた。熟れすぎた果実は己を酩酊させる味がした。羽化の時など疾うに過ぎている。今更戻ることもできなければ、進むこともできない。己は停滞を選んだ。羽がすでに体を覆い尽くすほど大きく生えていても、まだぬるい繭の中に閉じこもる。体を動かすたびに蒸れた臭いが鼻を撲つ。みにくい羽が目に入る。繭がミシミシと音を立てる。腐り堕ちる一歩手前の、生暖かい空気ばかり吸って、吐く。うす暗い内側に顔を擦り寄せてみると、ざらざらと毛羽立っていた。己はなるべく羽を小さく折りたたみ、じっと息をひそめ、待つ。何を? 殻を壊しに来る何か? 否。繭を食い破る鋭い嘴? 違う。さらに大きな羽? まさか。羽化などなかったとする夢想? 反吐が出る。己の罪を裁く何か? そうかもしれない。ああ、怖い。己は、繭ごとどろどろに溶かされる日を、待っている。どこまでも無力なまま、呪いながら、待つ。

受験短歌

計算用紙を四十二回折って月に行く 答えを探しに

終わったら焚書しよと言ったあの日の放課後を忘れないでね

燃ゆる問題集に問うわたしは立派でしたかとスモアをかじる

クソデカ感情短歌

最期まで添い遂げるとは言わぬから骨のひとかけでもくださいよ

未練などないと笑うあなた あたしは心残りにすらなれない

俺と君と死に損ねどもを引きつれて地獄でランデブーしよう

百年先で待ってろ いちばんぴかぴかになって迎えに行くわい

敬語のセリフ

「ええ、信じておりますとも。もしも神様がほんとうにいらすのなら、すぐにそこの神殿から引きずり落とし、問いただしてみせますわ。」

「──ならば、私は生涯、何も知らぬままでおりましょう。おかしいと笑ってくださいますな。私は、あの人が笑っておられる世であってほしいのです。所詮は私の我が儘です。けれど、他人の幸せを願うのは、いけないことではございませんでしょう?」

「お慕い申しあげております。しかれば、すべてを終わらせにまいりました。私と、あなたと、乱世の死に損ねどもを引き連れて、闇に葬る所存でございます。どうかご覚悟を。」

墓守

 黄金の季節は過ぎてしまいました。残るは零落、斜陽の季節です。盛りは終わり、やがて訪れるのは色褪せた日々です。花が永遠に盛りを迎えることはありません。絶対に枯れない花などありません。永遠も絶対も存在しません。されど変化はいたしません。いたすことができません。確かに澱んだ水は何も産みません。お前は簒奪すれば良いとおっしゃいますけど、血みどろの革命さえも辞さない気力は、私にはもう無いのでございます。さようなら。我が王とともに私は滅びゆくことでしょう。堕ちるところまで堕ちてゆきたいの。さようなら。そんなに不満なら王を殺せば良い。そうだね。王を殺せ。それか、お前の思想を殺すことだね。もっとも、両方とも、お前にはできっこないでしょうけど。だから、さようなら。

暖かさ

クッキー缶にしまっておきたいものが多すぎる。クッキーとやさしい思い出と大切な言葉と。

はじめてぬいぐるみを手にした温かさだけを抱えて大人になりたい。

信仰関連

「じゃあ教えてやろうか、神なんて居ない。お前が信じる楽園とやらも存在しない。男の肋骨から作られた女が蛇に唆されて知恵の実を貪ったことも無い。人は元から愚かで、小手先の知を悪用して、数ばかり増えた生き物だ」

「茨の冠でも被っとけよ、自己犠牲が得意なヒーロー様」

そうして少女は考えて考えて、考えて。唯一の武器である知性を、小さな頭蓋のなかになみなみとある知識を回転させて──ある結論にたどり着いた。それは至ってシンプル。言うなれば万有引力の法則のような、オイラーの公式のような。美しいことこの上ない。ニューロンの火花が大きく跳ねて、目の前に閃光がチカリと走った気がした。心地よい眩暈がした。

獣と人

わたしが獣であればよかったのに。獣ならば逃げれば済む話を、人間ゆえに立ち止まって向き合わなければならない。臆病は獣では美徳だが、人間においては悪徳も同然だ。

カフェオレ

カフェオレだと思って啜ってたのが泥水なのに気づく。わたしは決してみじめじゃないと信じていたかった。

どこかへ

「お給料をもらったらね、角の靴屋さんに駆け込むの。ショーウィンドウ越しに、ずっと目が合っていたあの子を買ってやるの。はじめて自分稼いだお金で買った靴を履いて……そうしたら、わたし、きっとどこまでも行けるわ」

春先

おろしたての服を着るときは、いつも春のよう。頭のてっぺんから足のつま先まで、まっさらでまっすぐで、やわらかい光を浴びて、足取りすら弾んでしまう。アスファルトには淡い花びらがほんのり、点々とついていて、とってもすてきだった。カバンには花びらがひとひら入っていて、ほわんと膨らんだスカートの影がかわいくって。思わずわたしはこの世界に、とびっきり、やさしくしてあげようと思うの。

臆病者の勇気

靴と知識さえあればどこへだって行ける。だから怖くはなかった。トランクいっぱいにお気に入りの本と服を携えて駆け出した。自分で稼いだお金で買った靴で走ると、何でもできる気がした。期待と夢だけでは食べていけないことはどこかわかっていた。それでも迷わずあちらへ進み出すことを選んだ。今の今まで、行かないという選択肢があったのに気づかなかった。そんな未来なんか想像できなかった。ママから貰い受けたトランクと自分で買った靴と進み出すための夢。わたし、それ以外何もいらない。