巣食われた心をすくってる

火や水から吸収したエネルギーで敵を飛ばしまくっていると、サイレンが鳴り響いた。どうやらこの場に倒れているうちの誰かが、電波妨害“個性”を持っていたようだ。確かもう一人通信妨害の“個性”持ちが居ると聞いていたけれど、既に誰かが倒したみたいだ。全員が気絶したことで“個性”を解除し、代わりに拘束用の頑丈な蔓を創造していく。全員分の蔓を用意すると、吸収したエネルギーは使い切ってしまった。あとは自分の中にある分だけ。敵がまだ残っている段階でガス欠にだけはなりたくない。

「尾白、拘束は任せていいかな。無線で警察に通報する」
「ああ、頼んだ!」

すっかり崩壊した火災ゾーンから出て無線を取り出す。以前イタズラで合わせたときの周波数に電子操作で変更し、呼びかける。しばらくそうしていると、聞き覚えのある声が機械を通して聞こえた。

「卯依か?」
「塚内くん?」

塚内くんは無線で、電子掲示場を見たバスの運転手が警察と学校に連絡していたことを教えてくれた。無駄じゃなかった、と安堵し入口方面へと向かう。

「敵の数は?」
「どうだろう。全員は確認できてないけど、50以上は居ると思う。それと、施設内への侵入経路は転送“個性”。そのせいで生徒があちこちに転送されて、今も交戦してる」
「全員の安否状況は?」
「少し前に監視カメラで見たときは、目立った怪我人は居なかった。けど今は分からない。相澤先生は一人で敵の主力と戦ってるだろうし」
「・・・・・・敵の目的は分かるか?」
「三下に聞いたけど、オールマイトが狙いだって言ってた。主力の敵がオールマイトを殺す予定だって。でもオールマイトはここに―――」

早歩きで話していた私は、入口方向から大きな音が聞こえて足を止めた。無線から焦ったように名前を呼ぶ塚内くんの声が聞こえる。

「入口の方でなにかあったのかも。なにかあったら連絡する」
「無茶だけはするなよ」
「分かってる」

サイコキネシスで飛べる程のエネルギーは無かったので、無線を握って全速力で走る。道を抜けて見たのは、一番ここに来て欲しくない人だった。


「――――俊典さん」


無線を掴んで連絡する。すぐに出た塚内くんに一言「オールマイトが来た」と言い、無線を切った。

脳がむき出しになっている異形敵と俊典さんが一体一で戦っている。その近くに相澤先生の姿は見えなかった。少しでもエネルギーを吸収しておこうと木々の隙間を走っていく。俊典さんから極力目を離さないで駆けていた私は、俊典さんが異形敵に拘束されたことで息を呑んだ。

まずい。こんなエネルギー量じゃ“個性”が使えない。間に合わない、なんとか―――

細い木に素手で触れ、微かに残ったエネルギーを操作して植物を成長させていく。伸びろ、ずっと高く、ずっと広く、植物をこの広場周辺に張り巡らせろ。エネルギーの操作と吸収を同時にやれ。

蛸の足のように地面を割って伸びる根の上を駆けていく。俊典さんまであと数十メートル。サイコキネシスで異形敵を引き剥がそうとして、かなりの抵抗があると気付いた。

焦燥で息が荒くなっていた私の視界の端に、物凄い勢いで飛んでくる人影があった。爆破と共に飛んでくるのは・・・・・・爆豪?

黒いもやを頭部から出した敵に襲いかかった爆豪が、そのまま馬乗りになって拘束する。私はそれを確認してから俊典さんの方へと近づいた。

地面が凍っていき、俊典さんを拘束している異形敵の半身が凍らされる。・・・・・・これなら。

植物から吸収したエネルギーを手のひらに収束させ、狙いを定めて凍った腕に向けて発射する。腕が砕け、俊典さんの拘束が緩まる。サイコキネシスで異形敵を押さえつけると、俊典さんは抜け出てきた。それにほっと息をつくも、俊典さんの脇腹部分から血が出ている。あの場所は手術した箇所だ。

轟に異形敵の全身を凍らせてもらって粉々に砕いてやりたいという気持ちを抱いた瞬間、凍った状態から無理に動いたせいで足までちぎれたそいつの手足がみるみる再生していくのを目撃した。怪力“個性”かと思ったけれどそうではないらしく、俊典さんが言うにはショック吸収の“個性”だという。それじゃあ、再生“個性”も合わせて三つ持ち・・・・・・? そんなことがあるのだろうかと言葉を無くしていると、異形敵が爆豪へと向かって駆け出した。