春に忘れてきた鳥の声

「A組緑谷、爆発で猛追―――っつーか!!」

第三関門、入口付近の地雷を掘り集め、わざと起動させることで自身を吹き飛ばす。かっちゃんの技、爆速ターボを参考にして考えついた案だ。爆破の衝撃で打った頭の痛みに耐えつつ、装甲に寝そべるような体制のままバランスを保つ。とてつもないスピードで進んでいき、最初は土埃や人影で見えていなかった先頭を走る三人の姿を見つけた。驚愕に染まる表情まで見て取れる。そしてそのまま―――

「抜いたあああああ!!」

地面を歩くかっちゃんと轟くんの上を通り過ぎ、卯依ちゃんのすぐ真下まで飛んでいく。―――やっぱ・・・勢いすごい!

(てかコレ着地、考えてなかったー!!)

「デクぁ!! 俺の前を行くんじゃねえ!!」

かっちゃんが爆破で迫ってくる。それだけじゃない、轟くんは地面を凍らせてスピードをあげ、卯依ちゃんも僕たちに背を向けた。僕を追い越そうとする二人と、失速する自分の体。そりゃそうだ、すぐ抜かれる。着地のタイムロスを考えれば、もっかい追い越すのは絶対無理。

―――卯依ちゃんもまだ遠くへは行ってない。この二人の前に出られた一瞬のチャンス。追い越し無理なら、抜かれちゃダメだ。
―――まだ手が届く今、その背を掴んで、放すな!!

掴んでいた装甲のコードを力いっぱい引っ張り、地面に振り下ろすように叩きつける。カチカチという機械音が聞こえた直後、僕たちの足元の地雷が起動し爆発した。

爆破の衝撃で自分の体が浮き、掴んだままだったコードを放した。装甲は僕というおもりを無くして高く飛んでいき、自分より少し前方を飛んでいた卯依ちゃん目掛けて向かっていく。顔から血の気が引いたが、幸いなことにさっきの爆発で振り向いていた卯依ちゃんが装甲を避けてくれた。そのまま華奢な体が爆煙に呑み込まれていくのを確認して、その下を駆け抜ける。

―――ごめん卯依ちゃん! ぶつからなくてよかった!

「緑谷間髪入れず後続妨害! 先頭を飛ぶ実操に対するミラクル妨害も決まったー!! 地雷原即クリア!」

入口ゲートをくぐり、暗い建物内を走り続ける。ずっと先に外の光が見える。あそこを越えたらゴールだ。スピードであの三人には適わない。だから全力で、一ミリも気を抜かずに走り抜けろ!

「さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!? 今一番にスタジアムへと還ってきたその男――――」

歓声が徐々に大きくなり、レースの終わりが近付く。大きく踏み出した僕の右足が、日の光に照らされたスタジアムのグラウンドへと、辿り着いた。

「―――緑谷出久の存在を!!」

地鳴りのような歓声が響き、じわじわと実感が沸いてくる。ばっと振り向いた後ろで、卯依ちゃんに続いて轟くん、かっちゃんがゴールしていくのが目に入った。

「・・・・・・っ!」

自然と拳を握っていた。口角を持ち上げて、拳を掲げる。

―――君が来たってことを、世の中に知らしめてほしい!!

オールマイトの言葉が脳裏によぎる。途端に涙腺が緩んで涙が溢れそうになったのを、必死で堪えた。親指でごしごし擦っていた僕は、視界の端に白いものがばっと飛び込んで来たことで硬直する。

「う、卯依ちゃん!?」

大きな眼をまんまるにして卯依ちゃんは僕を凝視していた。卯依ちゃんの “個性”を使用していないときの赤い瞳。それがきらきらと輝いて僕に向けられていた。ま、眩しい!

―――そうだ、卯依ちゃんにさっきのことを謝らないと!

卯依ちゃんの反射神経がよかったから無事で済んだけれど、もしも気付かず体にぶつかっていたら、大怪我していたかもしれない。僕が冷や汗をかきながら言葉を発するより先に、卯依ちゃんが口を開いた

「すごい!」
「・・・・・・へ?」

予想していなかった言葉に呆気に取られる。そんな僕を置いてけぼりに卯依ちゃんは言葉を続けた。

「出久が持ってたの、最初の仮想敵の装甲だよね。先のこと考えてあれ持ち続けてたんだ・・・・・・綱渡りのとき絶対邪魔になったはずなのに。最後の障害も、入口で地雷集めてわざと起爆させたんでしょ? その爆破の勢いで突っ込んでくるなんて予想もしてなかった。最後の妨害も間髪入れず、隙を与えずって感じで・・・・・・うまく言えないけど、とにかくこう、圧倒された!」
「う、卯依ちゃん?」
「慢心してたつもりはないけど、まだまだだった。私も、もっと頑張らなきゃ。とにかく・・・・・・一位おめでとう、出久!」

卯依ちゃんの勢いに押されるようにして一歩後退る。運動直後だからか少し赤面した卯依ちゃんの顔と、初めて見るような瞳の表情に息を呑む。卯依ちゃん、興奮すると口数が多くなって、語彙力が低下するタイプなのか。ギャップだ。