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もうひと振りの刀が完成するまで時間があるから、と全員で本丸内を見て回ることになった。今剣と前田に挟まれるように手を繋ぎ、廊下を進む。前田を顕現した後にこんのすけはどこかへ行ってしまった。

執務室のそばにある渡り廊下の先には茶室。
本丸内には広々とした大風呂や書庫もあったが、あるのはカゴや本棚だけで、風呂用具や本は一つも無かった。

若干の不安を抱えて台所に向かうと、案の定空っぽの食器棚の冷蔵庫。
かろうじて物置にあったテーブルを広間に引っ張り出し、机を囲って座る。

こんなんでどうやって生活をしていけと言うのか。

頭を抱える私を、短刀二人が心配したように声をかける。

「主さま―!」

廊下からこんのすけが顔を出した。ちょうど良いところに来た。聞きたいことがあるんだけど、と口を開いた私を遮るようにこんのすけが怒りだす。

「政府から荷物が届いています! 端末をご確認ください!」
「あ、端末。執務室だ」
「どうして持ち歩いていないんですか!」

持ち歩くようになんて言われたっけ。ぼんやりと思い出しつつ、ぷりぷりと怒るこんのすけに謝罪をしてから執務室に取りに向かう。

小走りの私の後をついてくる国広に気付いて「一人で行けるよ?」と言えば、「俺は近侍だ」と返された。近侍の仕事、やっぱりやりたかったのかな。さっきの対応はやっぱり間違えていなかったみたいだ。

端末を手にこんのすけ達のところへ戻り皆で確認してみると、さっきは無かったメールボックスのアイコンが増えている。こんのすけの説明を聞きつつそれを開くと、「転送ゲートへお越し下さい」というメッセージが出てきた。国広と顔を見合わせ、みんなで外の鳥居へ向かう。

鳥居の前にはダンボールがたくさん積み上げられていた。端末の詳細ページには、国広達の名前と生活品のリストが載っていたため、全員分の荷物があるのだろう。

それだけじゃない。
食器や畑道具も中に混ざっていた。

ひとまずみんなの名前が書かれたダンボールを刀剣の私室へ運んでいく。一部屋は八畳程の広さだ。私の部屋の正面と隣あった部屋は前田と今剣が使うことになった。

部屋割りは国広に一任したのだけど、審神者の近くは短刀がいいらしい。
理由は聞かなかったけれど、国広が良いというのならそれでいいだろう。

個人の荷物を部屋へ運び終え、次は台所用品と食品を運んでいく。付喪神なのだから当然だけれど、どこにしまえばいいか分からないようだったので、私とこんのすけで指示を出してお皿や食品を仕舞ってもらった。
それが終わっても、ゲートの前にはいくつもの箱が残っていた。

「これはなんでしょう」
「それは鍬(くわ)です。土を耕す道具です」
「この、きらきらした容器はなんでしょうか。液体が入っていますが・・・」
「それはシャンプーです。頭髪と頭皮を洗う洗剤です」

今剣と前田の質問に答えていくこんのすけ。二人は目をきらきらさせて質問を続ける。ちら、と横に居る国広を見ると、その手にはお風呂に浮かべるアヒルのおもちゃが乗っていた。

私の視線に気付いた国広がフードを引っ張り顔を隠す。おもちゃを箱に戻し、ダンボールを持ち上げて風呂場へと向かってしまった。気になってるのかな。