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食べ方はこんのすけに聞いたのだろう、国広が少しぎこちない手つきでうどんの数本を箸で持ち上げる。長谷部や前田達もそれを真似して食べ始めた。口に合わなかったらどうしようと抱いていた不安は、うどんを口に入れた途端に表情が明るくなった国広を見て吹き飛ぶ。

「美味しい?」
「・・・・・・ああ、うまい」

そう言ってどんどん食べ進める国広達に、ほっと胸をなでおろす。天ぷらやほかの料理も気に入ったようでみんな幸せそうに食べ進めている。私もさつまいもの天ぷらを口に運び一口かじる。うん、美味しい。

ほっこりしながら食べ進めて数分、ふと国広の食べるスピードが尋常ではないことに気付く。

「うどん、おかわりあるけど・・・・・・いる?」

箸を置いて聞いた私に、国広はこくんと頷きうどんが乗っていた大皿を差し出す。長谷部が「主になんて態度だ貴様!」と騒ぎ立てるが、愛染が「まあまあ」と抑えていた。私も大丈夫だよ、と笑って台所へ向かう。少し多めに作っておいて良かった。おなじように一人前を盛り直し広間へ運んでいく。今日一で嬉しそうな表情の国広を見て私も嬉しくなった。





食べ終わり、みんなで後片付けをしていく。長谷部と前田が手伝いを申し出てくれたので、私が食器を洗い、長谷部が水で洗い流す。最後に前田が拭いて食器を棚へと戻してくれた。三人も居れば食器洗いはすぐに終わり、エプロンを脱ぐ二人に向き直る。

「二人共ありがとう」

誇らしげに胸を張る長谷部と、照れくさそうに視線を下げる前田の頭を撫でた。さっきからずっと胸が暖かい。ふと、長谷部と前田の間に桜の花びらが見えた気がしたが、瞬きと同時に消えてしまった。帰還したときと同じだ。

これは一体なんなんだろう。後でこんのすけに聞いてみようと決意し、三人で広間へと戻る。残りの三人は長谷部と愛染の荷物を運んでくれていたのだけど、ちょうどそれも終わったらしい。

「それじゃあ、お風呂掃除してこよっか」
「お任せ下さい! 主!」

あんなに動き回って疲れないのだろうかと思うほど、長谷部は働き者だった。みんなで脱衣所とお風呂場を軽く掃除してお湯を溜めていく。

「こんのすけが言ってたけどさー、水に浸かるって大丈夫なのかよ」
「人の身とはいえ、少々心配ですね」

愛染が湯船を見下ろして言う。横にいる前田も不安そうだ。今剣はお風呂が楽しみなのか、わくわくを隠せないようだった。

「お風呂の入り方もこんのすけから聞いた?」
「ああ、口頭でだが」
「それじゃあ、ボディソープどれか分かる?」

国広はぼでぃそおぷ、と片言で呟き、すぐ傍にあったリンスの容器を持ち上げて渡してくる。大丈夫かこれ。

「あるじさま!」
「ん?」
「おふろ、いっしょにはいりましょう!」
「いいよー、今剣は私が教えながら入ろうか」
「やったー!」

抱きついてくる今剣を抱き返し、前田と愛染にも向き直る。「二人も一緒に入る?」と聞くと、前田は「お供します」と頭を下げ、愛染は顔を真っ赤にして「子供扱いすんなよ!」と怒り出した。なら、愛染は国広達と一緒がいいかな。

「少し大変だけど、お風呂から上がったら国広たちに教えてあげられる?」

今剣と前田に聞くと二人が勿論、と頷いてくれた。お礼を言い、浴室を後にする。ドライヤーやタオル等を用意しておいて、各々の部屋へと分かれていった。近侍の国広だけが隣に立っている。

「国広は部屋に行かなくていいの?」
「近侍だからな」
「ずっと一緒に居なくても大丈夫だよ」
「何かあっては困る」

布を引っ張って俯きがちで言う国広に、そっかと返事を返す。

「なら私も国広の部屋に行くからさ」
「・・・・・・」
「整理とかしたいだろうし、それならいいでしょう?」

国広はしばらく私の目を見返し、「あんたがそういうなら」と呟いた。