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朝食の片付けを終えた頃にこんのすけは出陣要請を告げた。陸奥守は私と一緒に待機してもらうことにして、残りの六人に出陣を頼む。刀装の確認を済ませ、鳥居の奥へと消える六人を見送ってから陸奥守と二人で本丸内の掃除を始め、二時間程経った頃に第一部隊は帰還した。

今剣と長谷部が軽症と端末に通知があったので、足早に鳥居へと向かう。先頭を歩いていた国広が握っていたのは、長さの違うふた振りの刀だった。

「みんなお疲れ様。ありがとうね」
「ああ」
「主さんただいまー!」
「おかえり」

国広や愛染らの奥から、怪我をした今剣と長谷部がとぼとぼと歩いてくる。今剣は怪我をした腕を抑えて痛みに耐えるような表情をしていた。

「あいったたた・・・・・・」
「二人共、大丈夫? 早く治療しよう」
「いえ、まだ行けますよ。死ななきゃ安い・・・・・・」

長谷部の言葉に思わず顔をしかめてしまう。会ったばかりの頃の国広といい、どうしてこう自分をないがしろにするのだろうか。

「―――今すぐ手入れ部屋へ行って治す! 審神者命令! 小さな傷も放置はだめ!!」

腰に手を当てて長谷部に言うと、長谷部はぎょっと驚いてから「は、はい!」と大きな返事をして駆けていった。今剣は笑顔になって「はーい!」と元気よく返事をして長谷部のあとをついていく。
・・・・・・って、私も行かないと。





二人を手入れ部屋の妖精に託し、私は国広と一緒に広間へとやってきた。広間には加州と前田が居て、愛染と陸奥守はレシピ本を片手に厨へ向かったらしい。私も顕現を済ませたら手伝おう。

加州が持つふた振りの刀をじっと見ると、一本は今剣たちと同じ短刀だと分かった。けれど、もうひと振りが初めて見る長さだったことに気付き目を瞬く。短刀より長く、打刀よりは短い。・・・・・・ということは

―――脇差だ。





「乱藤四郎だよ。……ねぇ、ボクと乱れたいの?」
「すみませーん。こっちに兼さん……和泉守兼定は来てませんか?・・・・・・あっ、僕は堀川国広です。よろしく」

二本同時の顕現に挑戦してみると、問題無く成功した。そして怒涛の自己紹介の勢いに押されてしまう。

乱と名乗った短刀の子は、薄いオレンジのような髪色と空のような丸い瞳を真っ直ぐに私に向けて微笑んでいた。ピンク色のフリルがついたスカートの装束を着て、とても可愛らしい顔立ちをしている。
堀川という男の子は、暗い髪色で、これまた綺麗な空色の瞳だ。本人の名前より先に別の刀の名前が出てきたことに驚く。兼さん・・・・・・?

「―――二人ともよろしく。この本丸の審神者です」
「わ〜! 女の子だ! 可愛い〜!!」
「とりあえず・・・・・・乱は女の子だよね?」
「刀剣男士だ、主」

国広がぼそっと口にした言葉に、「嘘でしょ!?」と叫ぶ。

「こんなに可愛いのに!?」

私の言葉に乱は「えへへ」と頬を染めて体を揺らしていた。こんなに可愛いのに・・・・・・? 藤四郎ってことは、前田と同じ粟田口吉光さんの手で作られた刀なのだろうか。それで、

「あなたが堀川・・・・・・国広ってことは・・・・・・」

ちらりと横の国広を見上げると、国広は視線を逸した。堀川がそれを見て首を傾げる。妙な空気に黙っていると、後ろからひょっこりと加州が顔を出した。

「やっほー、久しぶり堀川。悪いけど、和泉守は来てないよ」
「加州くん! ・・・・・・そっか」
「まあ、そのうち来るって」

親しげな二人の様子に目を丸める。この二人も、前の主が顔見知りだったりするのかな。陸奥守と違って、仲は良好に見えるけれど。

その後手入れを終えた長谷部や今剣も合流し、厨から愛染と陸奥守も出てきて全員で自己紹介を済ませた。藤四郎同士の前田と乱はさっそく打ち解けたようで笑顔で会話をしている。でも、国広と堀川は何故か顔を合わせようとしない。

この二人は、前の主の仲が悪かった、とか・・・・・・?