どれほどの想いをもって
犬岡とコーチに抱えられ、コートを遠ざかっていく夜久の背を見つめる。チームの空気が張り詰めていくのが分かった。夜久の居ない守備。全国への切符。主将としての責任。胃のあたりに重くずっしりとした何かが募っていく。
二回目のタイムアウト、緊張で険しい表情の芝山の背を叩く。呼吸をしろ。脳に酸素を送れ。自分にも言い聞かせるように。
「黒尾」
名前を呼ばれ、苗字の手からドリンクとタオルを受け取る。お礼を言って受け取ってから、その表情がいつもより強張っていることに気付いて、気付いたら笑っていた。自分でも気の抜けるような軽やかな笑い声だった。
「大丈夫だって」
苗字は目を丸めてから、安心したように笑みを浮かべて俺を見上げた。作戦会議をして、タイムアウトが間もなく終わる。ベンチに背を向けて数歩歩いてから、振り返った。苗字は俺を見ている。
「マネから激励の一言があれば、疲れなんて吹っ飛ぶんだけど」
「……」
「なんて」
いつもより口数が少なくなっていることに、苗字は言われて初めて気付いたらしい。しまったと言いたげな表情を引き締めてから、数歩踏み出して俺の右手を握った。
「信じてる」
山なりの眉、強い意志を感じる瞳。自信満々の、俺が好きな笑い方。
「おう」
俺もつられるように笑って、今度こそ背を向けた。チームメイトが(研磨以外)苗字の言葉を受けて、気合の入った表情をしている。マネージャーからの信頼だ。これに応えないわけにはいかないだろ。
「苗字のバフがかかったね」
「バフ?」
研磨の隣に並べば、視線は合わないまま俯きがちに言われた。バフ。聞き覚えがある。なんだっけ、ゲーム用語か?
「ゲームのキャラを強化するシステム。強くなったり、早くなったりする」
「……」
「今のクロ、無敵なんじゃない」
手の握られたときの感触を思い出すように、拳を握る。
「だな、絶好調だわ」