臆病者は仮面を被る

頬杖を突いて、目の前で楽しそうに一人で口を動かして喋り続ける女子を眺めながら何度目かわからない失恋を味わう。
この胸の痛みを味わうのはこれで何度目だろうか、と俺は自嘲するように笑った。


「好きな人できちゃったよグリーン〜」


項垂れる目の前の女子に苦笑い。
この気持ちを誤魔化すのも慣れたつもりだった。だけどやはり本人から報告を受けると、どーリアクションすればいいのかわからなくなる。ぎこちないのは百も承知で笑う、それくらいしかできない。
というかいちいち俺に報告してくるのはまじで勘弁してくれないだろうか、俺もさすがに気が狂いそうになる。


「今回はどんな奴なんだ?」
「ん?…優しい人」


恋してもフラれてばかりのナマエが、懲りもせずに恋した相手は誰なんだろうか…と訊ねたのが悪かった。
初めて見た、とても女らしく笑いやがるの。ズルいじゃないかよ…今までの恋が無かったことみたいに、そんな顔するなんて。
ズルいよナマエ、フラれたナマエを宥めようとした俺の計画を玉砕するなんて。


「でもね、その人は私のことを女として見てないの」


悲しそうに笑うなよ。
そんな顔しないでくれ。


「困った時はいつも助けてくれる、私のヒーローみたいな人」


「私は、この人を想うために生きてるんだって思えた」そう呟く彼女。俺の恋はどうやらこれで完全に終幕したらしい。告白する前にフラれる、とはよく言ったものだ。


「…そーか。頑張れよ!」


思ってもない言葉を吐くのも慣れた。
だけど、いつまで経ってもこの胸の痛みには慣れないな…、笑顔の仮面はいくらでも被ることができるのに、胸の耐久性はまったく良くならないのは何故だろうか。


「うん、頑張る。」
「応援してるぜ!泣かされたら言えよ?」
「…。…そーだね!頼りにしてる!」


ニッと笑う。無理でも笑わなきゃ乗り切れない気がしたから。
苦しそうに笑うナマエ。もう失恋を覚悟しているようなその笑みに、また心がえぐられるようだった。


『君が好きだよ』
そう言えたなら…どれだけ楽なんだろう。
素直に気持ちを吐き出せないのは…臆病になってしまうから。
嫌われたくないんだ、離れてほしくないんだ。


「グリーン」
「ん?」
「…、…いつも、ありがとう」



そう、ただ…臆病なんだよ……、

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