レイニーデイ

けして止みそうな気配の無い雨の中、まるで私だけが別の世界の人間かのようにただ一人、傘も差さずに濡れた道を歩く。

周りの目など気にならなかった。
自分が濡れている自覚もあまり持てなくて、今自分がどこを歩いてるのかもよくわからない。行き先なんてどこでもよくて、ただただ雨に濡れた道を意味もなく歩くの。

雨だとわかっていて、それでも傘も何も持たずに外を歩いている意味は自分自身よくわかってるつもりなのに、なぜか他人事のように感じて、「ごめん」と言われた言葉だけが、自棄に脳にこびりついていて。
ただ一言、そー言われただけですべてを理解して、同時にその現実を受け入れなきゃいけない状況になってしまって、その場にいるのも居たたまれなくて、笑って誤魔化して適当に離れたんだ。

嗚呼、今日が雨で本当によかった。
自分の頬が濡れてる理由が、すべて雨のせいにできるから、言い訳にできるから。
安堵していた矢先、突然自分を影が覆って、私のところに降っていた雨が止んだ。顔をそっと上げると、見知った顔があって、彼は私に傘を差し出していた。
ここに居るはずもない人物の登場に思わず吃驚してしまう。


「風邪引きますよ?」


なんて言うくせに、私に差し出したせいで自分こそ雨に晒されているじゃないか。私のことなんていいから、自分こそ風邪引く前に傘を、ちゃんと差した方がいいよ。
そう言いたいのに、唇が自棄に震えて、言葉にできなくて、今きっとすごいひどい顔してるから見られたくなくてさっさと逃げ出したいのに、まるで魔法にかけられたみたいに体が動かなくて。


「あちゃー、すごいびしょ濡れですね先輩。バケツの水かけられたみたいになってる」


可笑しそうに笑うくせに、まるで今の私の心情がわかるみたいに苦しそうに眉をひそめる彼を見上げて、ゆっくりと唇を開いた。


「…キョウ…ヘイ、くん、」
「ん?」
「わた、し……フラれちゃった」
「…はい」


雨でよかったと思ってたのに、雨が、私の弱さを隠してくれると思ってたのに。
なのに彼は、雨に紛れる私の弱さを容易く見付け出すの。そんなことされたらほら、傷付いた心があなたにぬくもりを求めてしまう。


「フラれちゃったよ」


だから、下手くそに笑うことしかできなくて、そしたら彼は、そんな私を見て切なげな表情をするの。なんであなたがそんな顔をするの?そう訊ねたら、彼は云う。


「先輩が笑うからだよ」


「だから僕が、代わりに苦しんでるんです」
その言葉が胸に響いて、彼の胸にすがるように飛び込んだ。私を強く受け止めた彼も、雨に濡れる。
道に転がった傘は、私達二人を雨から守ってくれることはなかった。
それでも満たされていくぬくもりに、私は安堵して涙が止まらなかった。

優しくしないで、と叫ぶ心とは裏腹に彼のぬくもりを求めている自分がとても滑稽だと思ったんだ……。

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