優しさなんていらない

いつだってあなたはずるい人。
私の気持ちを知ってて優しくするずるい人。
いつだって私が呼ぶのはあなたじゃないのに。
なのに私が苦しい時、辛い時、悲しい時、ずっとそばにいてくれる憎い人。



もうこれ以上優しくしないでほしい。
あなたの優しさに触れたくない。
そう言って突き放しても、あなたは優しく私を抱き寄せて背中を擦ってくれるの。



本当に優しくされたい人には相手もされないのに、あなたは私が彼に望むことを容易くする。
それが悔しくて悔しくて仕方なくて、私はいつだってあなたに呟く。


「っ大嫌い」


そう言えば離れてくれると思って、そう言えば優しくされないと思って。
でもあなたは私の顔を見て困ったように笑って頭をぶっきらぼうに撫でるだけ。
離れてくれない、一人にしてくれない。


あなたはずるい人、本当に…ずるい人。


「グリーンさん、」
「ん?」
「優しくしないでください」


いくら優しくされても、変わらない。心移りなんてできるわけない。
あなたに優しくされると苦しいだけなの。


「私は、グリーンさんなんて大嫌いだから」
「うん、知ってる」


それだけ言ってまた笑うあなたに、ズキズキ痛む。
嗚呼…この人を好きならこんなに痛くないんだろうな、と思うと視界が歪んで喉の奥が痛くなった。


「俺が勝手にやってることだし、気にすんな」
「気にするからっ、言ってるんじゃん…」
「お前は優しい奴だな」


「お前も苦しいだろ」と下手くそに笑ったあなたを見上げて、目に溜まっていた水の一滴が頬に流れた。


「グリーンさんを、好きになりたいよっ」


なんで私は彼を好きになったんだろう。
なんでグリーンさんを好きになれないんだろう。

苦しくて苦しくて声が震え、鼻の奥がツンと痛む。


「ナマエっ」


顎を優しく持ち上げられ、乾燥した唇が私の唇に触れる。触れるだけの口付けだった。触れ合った時間が長く感じた。
口付けながら優しく頬の水滴を親指で拭われた。この時だけは、目の前のあなたのことで頭がいっぱいいっぱいになって…、


口付けてる間だけ、私たちは両想いになれたの。


「好きだ」


私も、あなたを好きになりたいよグリーンさん。
そしたらきっと、あなたは私を骨の髄まで愛してくれるんでしょ?
そしてあなたは、今みたいに私に優しく微笑むんでしょ?


ああ、なんで私は…あの人を好きになったんだろうか、そう思わずにはいられない。


「ごめんね…」


好きだと、心から私に向けて言ってほしい人は、もう私の心の中には一人しかいないんだ。


残酷でひどい女だと軽蔑してよ。
そしたら私は笑ってあなたに言うの。


あなたなんて大嫌いだと。


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