滑稽且つ自己中心的な僕


「誰かを好きになることって面倒だよ。」


小さく和な町にある小さいながらも洒落た喫茶店で、紅茶を飲んでのんびりとしていた時、ふと、そんな言葉を思い出した。
この言葉を吐いた人は誰だったかな。今となっては思い出すのも頭が痛い。

しかしその言葉には俺も同感だった。誰か特定の人を好きになるのは面倒だ。
嫌われたくない、好かれていたい。そう思って努力し本当の自分を隠して偽りの自分を演じ続ける人間程滑稽なものはない。
好いた人に嫌われたくないからと、努力して、そしていつかは終わりを迎える。
そう思うと、努力が無駄に思えないか?
だったら自分のために生きた方がいい。
誰かのためでなく、自分のために、


「ありがとうございます先輩」
「お前のためじゃないから」


そう、いつだって自分のために。俺のために動いてることが、結果的にあいつを助けることになっていた。それだけだ。


「先輩、私思うんです。誰かを好きになるって面倒ですよね」
「なにいきなり」


紅茶を飲むけど舌が味を、熱を感じない。口の中で味わうように時間をかけて飲み込んだが、やはり感じない。


「面倒なんですよ。特別って…」


ああ、あいつの名前を思い出せないくせに、頭の隅にこびりついて離れないあの微笑みが鬱陶しい。
お前が否定した特別が、俺も憎いと思った。こんな感情知りたくなかったんだ。


「…なんで…っ…」


飲みかけのカップを置く。嫌なことを思い出した。知らないままでよかったことを思い出してしまった。一人の時間が虚しく感じる。


「俺も同感だよ、ナマエ…」


こんな気持ちになるから特別はいらない。
こんな気持ちになるから面倒なんだ。
結局いつかは終わりを迎えるというのに。
だったらいっそ、一人で生きていたい。
終わりなんて知りたくなかった。


「ナマエっ…わるかった…」


苦しむことになるなら、最初から願うべきじゃなかったんだよな。人を好いてしまった時点で、滑稽なのは俺も一緒か。


「ナマエ」


もう、この先けして願わないだろう。だがせめて…今だけ許されるなら言わせてくれないだろうか。


「大好きだった」


心から、お前のことが……、

小さく呟いた言葉は、静かな空間に溶けて消える。誰にも拾われるこもなく消えた言葉は、馬鹿馬鹿しいと自覚するには丁度よかった。

もう俺はこの先、お前以上の女を隣に置かない、そう心に誓って……、

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