付き合ってない
なにこれ。落ちていたメモを読み上げた私はその悪趣味さにドン引きした。
「どちらが相手の舌を噛み切らないと出られない部屋…」
平坦な声は思ってたより大きく6畳ほどの部屋に響く。新入隊員の初訓練に向かっていた私達はトリオン体であったのにも関わらず、気を失い目が覚めるとこの謎の部屋に閉じ込められていた。
「訓練の開始まであまり時間がないが、こんな紙に従ってやる必要もない」
一緒に閉じ込められてしまった東さんはそう言うと私の手から紙を取り上げビリビリに破いた。だいぶお怒りの様子でいつもの5割増で目付きが悪い。
「じゃあどうしますか」
「アイビスで壁を壊せばいいだろ」
東さんの手にはすでにアイビスが握られていた。私が呆気に取られている間に、壁に銃口が向けられ引き金が引かれた。ズンと重い発射音と壁にトリオン性の弾丸がぶつかった音。
反射的に瞑っていた目を恐る恐る開けると壁には穴が−−−空いていなかった。
「明塚、お前俺よりトリオン量多かったよな?」
「え、あ、ハイ…」
私の手の中にアイビスを出し東さんが撃った壁に照準を定める。そのまま引き金を引けば先程より大きな音と衝撃が壁と部屋を襲った。だが壁はうんともすんとも言わず私達の前に立ちはだかっている。
隣の人からは大きな舌打ちが聞こえた。こわ………。
「…明塚」
「ハッ、はい」
「口開けろ」
「え、あ、」
長い腕が私の肩を引き寄せ、大きな身体が私に覆いかぶさった。そのまま東さんの顔が近付いてきて、私のマヌケに開かれた唇と東さんの唇とがくっつく。
なにこれ?何がどうなってんの?
東さんは貪るように私の口内を蹂躙する。唾液が溢れ口の端から顎につたわる。
トリオン体だから苦しくないはずなのになんだか息苦しくなってきて、東さんの隊服を掴んですがりついてしまう。ぬるり、長い舌が私の舌を捕まえ東さんの口の中に招き入れる。
分厚い舌の感触に、ゾワゾワゾワ、背中から何かが上ってきて、反射的に体が逃げそうになるが肩と背を抑えられてしまっていて逃げられない。鼻にかかった声が自然と漏れ出てしまう。
ズルズルと音を立てて私の舌が吸われたかと思うと、東さんはそのまま前歯で舌を噛み切った。
私はまたもや混乱に陥った。口の中からトリオンの光がボコボコと漏れてあぶくのように消えていく。東さんは口の中にある私の舌を飲み込んでからそっと肩を掴んでいた手を離し背をポンポンと優しく撫でる。
「大丈夫か。いきなり悪かったな」
声色は背中を撫でる手と同じくらい優しくて温かい。あまりの出来事に声が出ず、目をそらすように頷くことしか出来ない。
東さんの隊服に縋る手にキュッと力が自然に入ったとき、ガチャリと鍵が開いた音が聞こえた。
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