古くて大きい車はエンジン音を響かせ他に誰もいないどこかへと続く道を走る。
時刻は午前6時前、山裾の向こう側から朝を告げる太陽の光が夜を地球の反対側に押し遣ろうとしていた。
「出掛けるぞ」
2時間ほど前にそう言って私を叩き起こし、運動するのにちょうど良いTシャツとジーンズとウインドブレーカーを投げて寄こした男、東春秋は、私の隣でハンドルを握っている。
私は如何にも不機嫌ですと言わんばかりにため息をはきながらどっかりとシートに座り直す。手に握っていた買ってもらったペットボトルを開けて口まで持っていくが、既に飲み干していたようでお茶味の雫がひとつぶ舌に落ちてきただけだった。
「史緒さん、機嫌、直してくれよ」
「史緒さんはこの上なくご機嫌ですけどぉ」
「じゃあその仏頂面はどうしたんだ」
東さんはいつもの穏やかな顔だ。古くて大きな車はよく手入れがされているのか地面をしっかり踏みしめ快調に道路を走る。
車にはキャンプ道具が積まれていて、これから向かう場所は言わずとも察することができた。
「東さん、私は前に東さんと一緒ならどこでもいいって言いましたよね」
「そうだな。だから今日も一緒に楽しんでもらおうと思って連れてきたんだが」
嘘だったのか?くつくつと笑う東さんは大層楽しそうだ。
「嘘なんか言いませんよ、私ホントに東さんとだったらどこだって行きますよ」「でもなにも当日いきなりじゃなくてもいいじゃないですか!」
私を無理矢理キャンプに連れ出して来たこの男の我慢しきれなかった笑い声が車の中で響いた。
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