扇風機




 今年の夏は暑い。

 照りつける太陽。

 煩わしい蝉の声。

 汗が止まらない。

 たまらくなって扇風機をつける。

 決して涼しいとは言えない生温い風が顔にかかり、汗で髪が額に張りつく。

 乾いてきた汗でいくらか涼しさを感じる。

 このオンボロ扇風機に向って、

 「あー」

 と声を出すことさえ億劫だ。

 垂れてきた汗が目に入って痛い。

 Tシャツの袖で額を拭う。

 汗は止まらない。

 乾いたそばからだらだらと垂れてくる。

 我慢できなくなり、ついには扇風機に抱きついた。

 膝立ちし、上半身で扇風機の頭を抱え込む。

 風と服がぶつかり、耳障りな音をたてる。

 あまりにも涼しくならないため、だらりと項垂れてしまう。

 その瞬間、汗で幾房にもまとまった髪が扇風機のファンに巻き込まれてしまった。

 がりがりがり
 ばりばりばり

 厭な音をたてて巻き込まれる。

 このまま無理に引き剥がそうとするのはまずい。

 とりあえず、スイッチを止めなければ。

 だが、いまの体勢では手脚がばたつくだけでスイッチを止められない。

 そのうちにも髪はどんどんと絡まり巻き込まれる。

 声をあげる間もなく、激痛に襲われる。

 厭だ
 厭だ
 厭だ

 汗が止まらない。

 もう、思い切って扇風機自体を引き剥がしてみようか。

 頭で考えるよりも先に、身体が動く。

 扇風機のカバーを強く掴み、ぎしぎしと揺らす。

 厭だ
 厭だ
 厭だ

 カバーを掴む手に力が入り、放射線状のつくられたそれに指が喰い込んでゆく。

 「あっ」

 気がついた時にはもう遅かった。

 ぽとり

 小さいなにか、赤にまみれたものが落ちた気がした。

 今年の夏は暑い。

 汗が止まらない。



 了



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意図的パンダ