それ以外特に何も変わったことは無い。シガイが量産されていたあの部屋はアーデンが抹消したらしい。
「ねぇアーデン」
「ん? なぁに? 」
「あのね、1つ、試したいことがあるの」
私はアーデンの望みを叶える方法を1つ思いついたのだ。
「へぇ、ホルマリンとモルヒネねぇ……」
「ホルマリンには殺菌作用もあるし、モルヒネは自律神経系の抑制があるからね。普通の人間でも毒になるけど、シガイの元が寄生虫であるなら、チャンスはあるかなって」
「ナマエは、俺が死んだらどうするの? 」
彼は聞いてくる。答えは1つだ。
「別に……変わらないよ」
「そっか、そりゃ残念」
なんでそんな事言うの。あんたが殺してくれって言ったじゃん。
「ナマエは1人で生きていくんだね」
「……うん」
「そっか」
アーデンは胸に抱き寄せてきた。本当は寂しい。でもこれは言えない。
「真面目だねぇ、君は」
「うるさい」
小言を言うと、決心する。これでもし彼に終わりが来たら……その時は──。
☆
ベッドに寝かせ、モルヒネを注射器で刺し、注入する。
しばらく様子を見ているとアーデンの反応が薄くなっていた。
「アーデン? 」
「…………ん」
まぶたが重いのか目を閉じていることが多くなった。口も徐々に開かなくなってきた。
「……アーデン」
「……」
アーデンは瞼を開こうとしていたが、とても辛そうだ。
「アーデン、1つだけ聞いて」
聞こえているかどうか分からないけど、それでも続けた。
「アーデンのこと、好きだったよ」
泣きそうになりながら呟いた。段々と反応しなくなった彼に涙がこぼれ落ちる。
「……ナマエ」
辛うじてもう一度口を開いた。掠れた声で彼はこう言った。
「……キス、して」
私は彼に抱きつき、口付けた。本当はこれからも傍にいて欲しかった。それでも、彼は長生きしすぎたのなら、休ませるべきだと思う。
「アーデンは、化け物なんかじゃない。ちゃんと人間だったよ」
さらにホルマリンを彼に注射する。
優しい優しい王様。
自己犠牲で化け物になってしまった王様。
「……おやすみ、アーデン」
彼の呼吸は完全に止まった。手を握ると、冷たい手は本当に冷たくなっていた。心臓に耳を傾けても鼓動は聞こえない。
これで、良かったのだ──……。
「みんな私を置いていくんだね」
お父さんもお母さんも、大好きだった人たちも……。
──ここでニュースです。アーデン・イズニア宰相の別宅に、1人の女性が見つかりました。遺体は死後2週間が経っており、身元は波戸場ナマエさん。現場検証にて、薬物の摂取による自殺であると──