「おっと」
「大丈夫です……か!? 」
トン、とアーデンさんに壁ドンされる。今のは事故だったけど、いざ片思いの相手の顔が近くにあると呼吸は出来ないし顔は真っ赤だろう。
「これは失礼」
目の前の相手はにこっと笑う。2人きりの静かなエレベーター内だが、彼は退くつもりがないのか、ずっと同じ体勢で、見つめてくる。
(近い……!すごくいい匂いする……!)
ふわりと香る香水。普段はあまり近くで見ることの出来ない整った顔立ち。憧れていた相手の全てが五感を刺激してくる。
「可愛いね」
アーデンさんは更に顔を近づけてくる。キスされる、と目をキュッと瞑ると「なーんてね」と笑って離れる。
「えっ」
「可愛いからさ、思わずからかいたくなっちゃって」
アーデンさんはくすくす笑う。期待した自分がバカバカしくなり、そっぽを向く。すると、名前を呼ばれる。
「はい? 」
反射的に振り向くとまた顔が近くにあり、それは息がかかるほどに──……
チュッ
軽く触れた唇同士はリップ音をたてて離れた。
「またね」
チーンとなったエレベーター。ドアが開き、アーデンさんは颯爽と降りていった。キスをされた事実が未だに受け入れられなくて、しばらく呆然と立ち竦んでいた。