不意に投げかけられた疑問。それはあまりも突然すぎた。
先程の疑問を投げかけた本人──カコは、じっと私の目を見ていた。もう1人の友人、タナカはキョトンとしてカコと私を交互に見る。
「あまりに突然過ぎて驚いたんだが」
「いや、そういう家系だから、お前も兄ちゃんのことが好きだったのかな〜とか思っただけだよ」
「……」
──好きだったに決まっている。彼と幸せになりたかったくらいに。
私──ジャック・ブレア──の家は言わば近親相姦というもので子孫を残していた。以前血統の書を読んだ際に乗っていた先祖は皆赤髪で、所々で遺伝子破壊された為か顔がおかしなものが多かった。私の両親も兄弟で結婚し、兄と姉、私の3人の子供を産んだ。
私は表面上はさほど他の人間と変わらない分、体がとても弱かった。逆にブレア家の当主として引き継いだ姉、サラ・ブレアは顔面麻痺のように顔が歪んでいた。兄は奇跡的にまともな体で生まれた。
当主として選ばれた姉は男兄弟である兄と結婚が約束されていた。
私は兄以外の男を知らなかった。
体が弱く、1日の半分を機械の中で過ごさなければいけない。その中で優しくしてくれたのは兄──リチャード・ブレア──だけだった。母と姉からは欠陥品として扱われ蔑まれていた。だが兄は違った。
「ジャック、この石綺麗だろ? お前にも見せたくて買ってきたんだ。」
「ジャック、本を買ってきたんだ。ジャックの好みに合えばいいけど」
ジャック、ジャック──……
唯一名前を呼んでくれた。優しい兄が大好きだった。
──私が体が弱くなければ、大好きな兄と結婚できたのかな。
そう思ったが、決まり事は決まり事なのだ。優しい兄が幸せでいてくれればいい。そう思っていた。
しかし……私が15を迎えた年。地獄が始まるきっかけが訪れた。
「初めまして、モントゴメリーと申します。リチャードさんはいらっしゃいますか? 」
ある日うちに訪れた青い髪の美しい女性。何も知らない私は兄の知り合いだと思っていた。
「グレース! なぜここに来た! 」
兄は血相を変えて玄関まで降りてきた。こんなに青ざめた表情の兄は見たことがなかった。
「ジャック、サラには言うなよ……絶対に……」
「う、うん、分かった」
元々姉と話すことは好きではなかった為、素直に頷く。
グレースという女は兄によって帰された。
しかし、しばらくすると兄は家を留守にすることが多くなった。
そして──…
「何なのあの女! 」
グレースという女と兄が恋人同士であることが発覚すると姉はヒステリーを起こし、家中のあらゆるものを壊して回った。そしてその被害は私にも及んだ。
身体的、精神的虐待に加えてネグレクトとして家畜のようにも扱われた。
あの時は何なのかさっぱり分からなかったが、発狂した姉がとても恐ろしく、震えていたことをまだ覚えている。
身体的、精神的虐待はもちろん、ネグレクトを受け私は家畜のようにさえ扱われた。
そう、私はブレア家のヒエラルキーは最下層だった。
「犬、ご飯よ」
鎖に繋がれ、床に跪いて口だけでご飯(しかも人間のご飯とは思えないもの)を食べさせられていた。
そんな生活が1、2ヶ月は続いた。兄は突然帰ってきて自分を閉じ込める代わりに私を解放するようお願いしてくれた。
今度は兄が監禁される側になった。
私は解放されたが、モヤモヤとしていた。
兄が帰ってきたこと、姉からの嫌がらせは無くなった事に対して安心感を覚えたが、その反面兄のことが心配でならなかった。
兄の部屋は完全にセキュリティロックで姉しか入れない状態になっていた。
あの女、グレースという女のことは諦めたのかな。と思っていたが、そうではなかった。
「死んでちょうだい」
「えっ」
突然姉に告げられた残酷な言葉。そして撃たれた銃は腹を貫いた。
痛い……痛い、痛い、痛い!!
なんで、なんで、私がそうなったの……何で私が!
冷たい床に倒れ、霞んだいく視界に見えたのは、誰かが小さな何かを入れた所だった。
「……たす、けて……」
それから私は、初めて”友達”というものを得た。それがカコとタナカだ。2人は私のことを大事にしてくれる。そして、憎き存在サラ・ブレアと私が虐げられた原因を作った女、グレース・モントゴメリーへの復讐を誓い、奇襲をかけた。
大好きだった兄には申し訳ない。
だけど、私は私の憎悪を抑えきれない。
兄さんと愛し合ったあの女が憎くて嫌いで堪らない!!
ある日を境に居なくなってしまった兄さん。
大好きだった兄さん。
どうか、どうか──…
「ジャック、……ジャック! 」
タナカに呼びかけられ、ハッと我に返る。
「嫌なことでも思い出したの? 」
「いや……大丈夫」
「まあお前は一生兄ちゃん大好きっ子なんだろうな」
「……そうかもな」
「そろそろ時間よ、お休みなさい」
「……うん、後は頼んだ」
私はいつもの機械の中に入る。
そしてふと疑問に思うのだ。
──地下にいるあの熊のような化け物はなんだろう